act4

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いい匂いがしてくる、ママは卵焼きを作っている。 ピ―ピーピー 炊飯器を開ける、大きな弁当箱に詰めた。 「あんた、あの子のとこ行くんでしょ、これ持って行ってくれる?」 「あ、うん」 ママは手際よく何かを詰めては片付けていった。そして、思い出すように話しはじめた。 「あの子ね、ここに初めて来たときはコロコロしててね、今の倍もっとあったかしら、かわいくってね、未成年は入れないって言ったら二十歳ですって、もう二年になるのね・・・」 「じゃ、二十二、俺のいっこしたか、でも、そんな太ってないっていうか、細いくらいですよね」 「拒食症よ、食べたり食べなかったりを繰り返す。今あの子は食べないモードに入ったの」 「そんなんじゃ、だからあいつ死んでもいいなんて」 「だから支える人が必要なのよ、それをわかってやれないのならさっさと消えることね、あの子のつらい顔はもう見たくないから」 「それ、矛盾してますよね」 「・・・そうかもね」 グラスに氷を入れたのを目の前に置くと、カウンターの男の隣に座り、ウィスキーを注ぐと男の前に出した。 「俺、金欠で」 「あら、昨日一万も出したくせに?」 「あれで最後」 「プー。おごるわよ」 「すみません、いただきます」 グラスを転がしながら話す 「オカマってさ、コンプレックスの塊でしょ、心と体の、この年になるとね、鏡見てぞっとするの、でもね、普通の男には戻れない、体は男でも、心は女どこかで男を求めてる、だから、深入りしちゃいけないのはわかってる、私も人間ですもの、好きな人が出来たらあの子を捨てちゃうかもしれない、でも今は、まだあの子を死なせたくない・・・あの子は女だから、思春期の頃からずっと嫌な思いばかりしてきた、つらい過去もある、仲間じゃないけど、ここに来れば、安心できるのよね・・・あの子」 「あの、一つ聞いてもいいですか?」 「なに?」 「ママさんは子供作れる体ですか?」 「産んでみたいのよね」 男は驚いた顔をした。 「アハハハ、面白い子ね、私、そっちはふつう、生殖器の方はね」 「そうですか、俺、ダメなんですよね」 ママは男の顔を覗き込んだ。 「へ、何、お仲間なの?」 「そうなるのかな、染色体異常、俺双子で後だったんでケンジなんですけどね、上は死産だったんです。俺は、中学の時にわかったんです、生殖機能に異常があるって、絶対に女腹ますことがないから、遊びまくってたんですけどね、あいつに会ってから、気持ちが・・・」 「そのことは親御さん知ってるの?」 「はい、弟は普通だったんです、だから俺は家に居られなくなった、高校からこっちに出て、大学も行きました、縁を切ったんです。家族と」 ハー、大きなため息、何かを考えながら話をしはじめた。 「あの子がここに来はじめてすぐ、救急車で運んだわ、すごい腹痛でね、子供がいるんじゃないかと思うぐらいお腹が出てて、病気だったわ、すぐに手術して、子宮を取っちゃった。あの子の母親がね、私にすごく感謝してくれて、これからも見ててくれって頼まれたの、丁度男に捨てられたころでね、ほっといたら多分あの子ほんとに死んでたと思う」 目を閉じればあの日がよみがえる。 手術を終え何日かたって母親がいったん田舎に帰った日 誰もいない病室、母親が置いていった果物ナイフ 「こんなものがあるからだ!」 着替えを持って開店前に病室へ向かう。 「ご家族の方ですか。今個室に移しました、すぐに来てください」 何が起きたのかあわてて看護師の後をついていく。 胸の上には大量のガーゼが乗っている。 「ショックを受けたのか、これ、もって帰ってください」 渡された果物ナイフ。 あの子は胸にナイフを突き当てた。 鮮血が飛び散ったカーテンは、変えられることなく、退院の日まで釣り下がっていた。 「いいんすか、話しちゃって・・・」 「あんたの話聞いて、ゆらいじゃった。みお、任せていいかなって」 ―おはようございまーす ―おはー、あれ?ケンちゃん 「いや~ン、ママ、同伴?なにそれ~」 「いいでしょ、さてと仕事しますか、ケンジ君、これお願い、後、はい、コレ貸してあげるわ、返してね」 女の部屋の鍵、男は頭を下げると、紙袋に入った弁当を持って女の部屋に向かった。
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