act6

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電車に乗り込んだ二人、雨が降っているせいもあるのか車内はすいていた。すぐそこまでだが二人は並んで座った。 男はТシャツにスーツ、裸足に、生乾きの靴を履いてる。女は男のような格好をしている。ジーンズのポケットに手をつこんで座席に浅く腰を掛け足を投げ出す。 「へー考えたな」 「普通だろ?」 「そお?」 帽子のつばにМP3を引っ掛け音楽を聴いてる。 「何聞いてるの?」 片方のイヤホンを取った 「へー、外人?」 「日本人かも」 「なんで?」 「オオカミのお面付けてるから」 「何それ、あ、日本語の曲」 並んで座り、聞いていた。 アナウンスが流れた、男は手を握ると引っ張った。 「早い、もっとゆっくり歩け」 「うん、いい曲だね」 イヤホンが伸びる。引っ張られる、黙って歩く二人 「ねえ、そろそろ離してくんない?」 「嫌だ、みおはすぐいなくなりそうだから!」 「まだ歩く?」 「んーあと三分ぐらい、もう見えてるんだけどな」 「遠いね」 「そう?駅から十分なんて曲二曲分だろ」 「まあ、そおだけどどこ行くの?」 「俺んち」 マンションが立ち並ぶまるでテレビドラマに出てきそうな高級マンション 「ここ」 「家族で住んでるの?」 「俺一人」 「高そう」 「見晴らしいいよ」 「家賃のこと!」 「これ、俺、買ったんだ」 「お金持ち?」 「中古、学生の時から手付けてたんだ、三十五年ローン、あと二十年すげーだろ」 エレベーターに乗り込む、最上階 「二十四でしょ?なんか合わないよねローン」 「少し、親が出してくれた、でもほとんど俺だから」 「それで金欠(きんけつ)か」 「別に遊んでるわけじゃねーし」 「ふーん、えらいね」 褒められて耳が赤くなった。 「ついたよ、どうぞ」 長い廊下の周りにはいくつも扉がある。 「広い、えっ、ここに一人?」 「そっ、すげーだろ」 「ふーん」(奥さんと子供が出来たら、これくらいはいるよね) 綺麗なダイニングキッチン、カウンターの傍(かたわ)らに薬の白い袋が積まれている。男はキッチンへと入っていく。 「ねえ、体悪いの?」 「そうなの、俺、か弱くてさ、みおと一緒に慣(な)れればこれ飲まなくて済むんだけどな」 「またまた冗談、なんであたしなのよ、あーあ、又雨降って来ちゃった」 大きな窓、広いベランダ、未来が見える様で胸が痛い。ここにいたくない。 「ごめん、帰る」 「なんだよ、今来たばっかりだろ?」 「ごめん、ちょっと」「まって!」 廊下へ出た、狭い空間にほっとして大きく息を吸い込んだ。 「あ、よかったいてくれて、大丈夫か?」 「ごめん、私、広い所が苦手で」 「そうか、じゃちょっと待ってて」 「もういい、帰る」 ガラガラと何かを運んでいるような音がする 「おいでよ、もう大丈夫だよ」 障子で部屋を仕切っていた。 「俺着替えて来るわ」 いっぱいあるドアの一つに入っていく。 ―その辺座って― 仕切った部屋、和室なのか、畳が敷いてある。 (若いのにすごいな) 感心はした、だがここにいる意味はない、すぐに帰れるようにそのままでいた。
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