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男はカバンと帽子を持ってきた。
「行こうか、まだ雨降ってんだよな」
エレベーターに乗る
「はい、これ持っててね」
「なにこれ?」
「家の鍵」
「いらない」
「なんでだよ、合いかぎだよ、絶対必要になるって、ブラ探しに来れるしさ、それにいう事聞かなきゃ」
渋々鍵を受け取った。
黙って歩く後ろをついていく。
「どこ行くの?」
「映画、見たいのがあったんだよね」
「一人で行けば」
急に立ち止まった。
「それがね、じゃじゃーん、二枚券があるのです」
「よかったね」
「聞いて聞いて、これさ、年齢十歳にしたら当たったんだよ、すごいと思わない?」
子供と大人が混同する、見てて面白い。
「で、何見るの?」
「アニメ」
「アニメ?」
「俺さ、この監督の作品好きでさ、全部見てるんだよね」
「ねえ、もしかして、この行列並ぶの?」
「雨だから混んでるのかな、ちょっと見てくる」
目の前に現れた行列、男は走って前の方へと見に行った。前の方で手を振る、恥ずかしい。並んでる人の横を通り過ぎる。
「今日、夕方から試写会があるんだって、それに並んでるんだってさ、行こう、俺の見たいの違うから」
表通りには何軒かの映画館が並んでいる。
「あ、これ」
アルタ前の看板になっていた物だった。
大人、アベックも入ってゆく、子供より大人の方が多い。
「パンフ買ってくる、ここで待ってて」
傘を渡された。そういえば、映画久しぶりだな、学生の時見たよな。
「ねえ、これさカバンに入れて、手ふさがっちゃった」
脇に挟んだパンフレット、両手にはジュースとお決まりのポップコーン、女はパンフレットをカバンに入れた。
「なんでかさ、映画館のポップコーンて美味しいんだよな」
ドアを開けた、ざわめく会場、男は何か探している。
「あった、付いて来て」
ちょっと変わった席、ゆったりと作られている、二人用の席みたいだ。
「ここさ、アベック席なんだ、でよく見えるんだよね、一回はここに座ってみたくてさ、野郎と二人で座ったら注意されてさ」
楽しそうに話す男は、奥の方へと進んだ。
「端じゃ駄目なの?」
「子供もいるだろ、結構出入りがあるからさ、中の方がいいんだ」
「へー」
二人は空いている席に座った
「へー、隣見えないんだね」
「でさ、ここ見て」
頭の上にスピーカーのようなものがある
「スピーカー、ここにもあるだろ、サウンドはすごくいいんだ、ここの映画館、作り直してから、客数伸びてるからね」
「ふーん」
「ほら、食べなよ、あったかいんだぜ」
手を出した、暖かい出来たて、口に入れると、塩味の聞いた油の味がおいしい
「おいしい」
「そうだろ、あんまり食うなよ、すぐなくなるから」
「けち」
「お、始まる、CМから見ないとね」
大音量が前から後ろから包む
大人向けのアニメ、そんな気がした。内容も、絵もきれいだった。
横を向くと、大泣きしている男、カバンからハンカチとティッシュを出した。手を叩く、こっちを見た、すごい顔に笑いが出た。
ハンカチとティッシュを、受け取ると、鼻をかんだ、ハンカチで、目を抑える。
かわいく見えた、男の子がこんなにも泣いているのを初めて見た。
ラストは二人とも泣いていた。
「ティッシュ全部使っちゃった、まだある?」
「あるよ、ちょっとまって」
ハンカチで女の涙をふく。
「ちょっと待って、私もほしい」
笑いながら、一枚手にして、渡した。二人で鼻をかんだ。笑った。
「おもしろかった」
「そうだろ。よかっただろ」
「ありがと」
傘を二本持った。外は雨が止んで暗くなり始めていた。
「よかった止んで、もう一件付き合って」
手を握ると歩き出した。
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