act7

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男はカバンと帽子を持ってきた。 「行こうか、まだ雨降ってんだよな」 エレベーターに乗る 「はい、これ持っててね」 「なにこれ?」 「家の鍵」 「いらない」 「なんでだよ、合いかぎだよ、絶対必要になるって、ブラ探しに来れるしさ、それにいう事聞かなきゃ」 渋々鍵を受け取った。 黙って歩く後ろをついていく。 「どこ行くの?」 「映画、見たいのがあったんだよね」 「一人で行けば」 急に立ち止まった。 「それがね、じゃじゃーん、二枚券があるのです」 「よかったね」 「聞いて聞いて、これさ、年齢十歳にしたら当たったんだよ、すごいと思わない?」 子供と大人が混同する、見てて面白い。 「で、何見るの?」 「アニメ」 「アニメ?」 「俺さ、この監督の作品好きでさ、全部見てるんだよね」 「ねえ、もしかして、この行列並ぶの?」 「雨だから混んでるのかな、ちょっと見てくる」 目の前に現れた行列、男は走って前の方へと見に行った。前の方で手を振る、恥ずかしい。並んでる人の横を通り過ぎる。 「今日、夕方から試写会があるんだって、それに並んでるんだってさ、行こう、俺の見たいの違うから」 表通りには何軒かの映画館が並んでいる。 「あ、これ」 アルタ前の看板になっていた物だった。 大人、アベックも入ってゆく、子供より大人の方が多い。 「パンフ買ってくる、ここで待ってて」 傘を渡された。そういえば、映画久しぶりだな、学生の時見たよな。 「ねえ、これさカバンに入れて、手ふさがっちゃった」 脇に挟んだパンフレット、両手にはジュースとお決まりのポップコーン、女はパンフレットをカバンに入れた。 「なんでかさ、映画館のポップコーンて美味しいんだよな」 ドアを開けた、ざわめく会場、男は何か探している。 「あった、付いて来て」 ちょっと変わった席、ゆったりと作られている、二人用の席みたいだ。 「ここさ、アベック席なんだ、でよく見えるんだよね、一回はここに座ってみたくてさ、野郎と二人で座ったら注意されてさ」 楽しそうに話す男は、奥の方へと進んだ。 「端じゃ駄目なの?」 「子供もいるだろ、結構出入りがあるからさ、中の方がいいんだ」 「へー」 二人は空いている席に座った 「へー、隣見えないんだね」 「でさ、ここ見て」 頭の上にスピーカーのようなものがある 「スピーカー、ここにもあるだろ、サウンドはすごくいいんだ、ここの映画館、作り直してから、客数伸びてるからね」 「ふーん」 「ほら、食べなよ、あったかいんだぜ」 手を出した、暖かい出来たて、口に入れると、塩味の聞いた油の味がおいしい 「おいしい」 「そうだろ、あんまり食うなよ、すぐなくなるから」 「けち」 「お、始まる、CМから見ないとね」 大音量が前から後ろから包む 大人向けのアニメ、そんな気がした。内容も、絵もきれいだった。 横を向くと、大泣きしている男、カバンからハンカチとティッシュを出した。手を叩く、こっちを見た、すごい顔に笑いが出た。 ハンカチとティッシュを、受け取ると、鼻をかんだ、ハンカチで、目を抑える。 かわいく見えた、男の子がこんなにも泣いているのを初めて見た。 ラストは二人とも泣いていた。 「ティッシュ全部使っちゃった、まだある?」 「あるよ、ちょっとまって」 ハンカチで女の涙をふく。 「ちょっと待って、私もほしい」 笑いながら、一枚手にして、渡した。二人で鼻をかんだ。笑った。 「おもしろかった」 「そうだろ。よかっただろ」 「ありがと」 傘を二本持った。外は雨が止んで暗くなり始めていた。 「よかった止んで、もう一件付き合って」 手を握ると歩き出した。
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