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就職は東京に出ると決めていた、進学よりもこの町から出たかった。そして、ここでも制服は問題になった。一番大きなサイズ、それでも胸がはだける。無理やりさらしを撒いたりしたけど、仕事中何度も直すのに苦労した。そのうち体がゆう事を聞かなくなってきた、だるい、仕事に行きたくない、その時、職場の先輩に勧められ、男性と付き合うようになった。十歳年上、優しさに甘えた。
それでも、他の男のアプローチは同じ職場の中では断れない怖さがあった、今だから、セクハラとか言っていられるけど、その頃は新人、二十歳前、何も知らない大人の世界へ引きずり込まれた。
―誘ってるんだろ
―させろよ
そんな言葉ばかり
犯され
そして、捨てられた。
愛した男も去っていった。
(やっぱり、体だけだったんだ)
気付いた時には、体はボロボロだった。
一度は田舎へ引っ込んだ。ここで永久就職しちゃえよ。同級生や学校の先輩後輩、男の軽い言葉、目が嫌だった、アルバイト先に来る客の目も嫌になった。
―誰も知らない所へ行きたい。
また、東京へ出てきた。
ここなら、この街なら、知らないふりをして人と通り過ぎるだけでいいのだから。深入りする人間関係はいらない・・・
のたれ死ぬには最高の街、誰にも迷惑かけず死ねるんだろうな。
新宿アルタ前
休憩時間、煙草を吸いながら、ボーっと大型テレビを眺める。
まだまだ日中は暑い、ちょっとした日陰を捜し入り込む。
ーお姉さん遊ばない?
ナンパ
いい男ならまだしも、変なオヤジばかり声をかけてくる。目線は胸ばかり。煙草の煙をかけ、手を振る。
―チッ、ブスが
「だったら声なんかかけるんじゃねーよ、ばーか」
腕時計、仕事の時間、重い腰を上げ職場へ入る。だふっとしたつなぎ、ガテン系の男の格好、袖を腰で巻き、丁シャツ姿になる、そこでも男の視線を排除できない。
愛想も尽きた。何をするにも、もめんどくさい。夜は通い慣れたオカマバーへ行く。
誰も干渉しない、居心地のいい空間、気さくな定員たち。通い始めて二年がたった。
「ねえ、今度海いかない?」
「私、パス」
「一回ぐらいいいじゃない、付き合い悪いはよ」
「そーよ、オカマばっかりなんだからさ、男の振りしちゃえばいいじゃない」
「ミーちゃん、まだ二十代でしょ、遊ばなきゃ」
「めんどくさいー、ママ、オムライス」
「ハイハイ、子供よね」
「まさみちゃん、ビール下さい」
「まだ飲むの、帰れなくなるはよ」
「いいもーん、ここで寝るから」
ビールに口をつけ、煙草に火をつけた。
「あんたご飯食べる前にタバコ吸ったらダメじゃない」
「すみません、すぐ消します」
「この子、ママのゆうことは素直に聞くのね」
「ママ好きよ、私」
「ありがと、少し気晴らしもいいんじゃない、みんなで行くんだから」
プロ並みのオムライスが目の前に出た
「ママの最高、いただきます」
「召し上がれ」
髪はバッサリと切った。
「坊ちゃんがりにしてください」
客の少ない近所のとこや、おじさんは驚いていたが、今はいい常連客になっていた。刈上げた頭は夏には涼しい。男みたいな恰好、大きいシャツは胸を隠してくれる。
仕事は大変だったが何とかやっている、仕事場の雰囲気もいい、友達ではないが話をできる人たちはいた、上司たちのセクハラも今は足蹴にできるくらい強くなったと思っていた。
でも、ここはほんとに居心地がよかった、男性の悩み、ただ、女に生まれてこれなかっただけ、ママの言葉に甘えていた。
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