act7

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長い行列の横を歩く。恥ずかしくて帽子を下げた。 傘を取り上げられ、腕を引っ張られた。 「今日さ、特売日でおひとり様三点までなんだよね」 スーパー、カップラーメンが店頭に並んでいる。それを六個かごに入れると中へ入った。 久しぶりに入るこの感覚に、心が躍る、積まれた果物に手を伸ばす。 「オレンジ、食べる?」 首を振った。 キャベツ、ニンジン、玉ねぎ、じゃがいも 「ここの店安いだろ、朝食ったサンドイッチ作るのにさ、買っておくんだ」 「カート、持って来ようか?」 「うん」 男の嬉しそうな顔、女はカートに空のカゴを持ってきた。 「いっぱいだね」 「自炊するには、これくらい必要ですから」 ○○○○円です 「ごめん、買いすぎた、お金貸して」 「はい、倍返しでいいからね」 ありがとうございました。 「カップラーメン軽いから持つ」 「ありがと、明日家から出られないな」 「仕方無いね、あ、ちょっと待ってて」 女は又店の中へと戻っていく、 「何買って来たの?」 「今日のお礼、ビール」 「う、うれしいです」 「泣かない、泣かない」 男のマンションへと向かった。 「ごめん、開けて」 合鍵で開ける。 「役に立っただろ?」 「そうね」 部屋に入ると台所へ直行した。荷物を置く。 「トイレ行って来る」 女は、冷蔵庫を開け、買ってきたものを入れ始めた。 「ありがと、悪いけど、お湯わかして」 ケトルをすすいで、水を入れ火にかけた。 「私もトイレ行って来る」 戻ってくると、流しに野菜が置かれた。 「何作るの?」 「金欠よう、カレーライス」 ドンと、大きい鍋が置かれた。 「何人前つくるんですか?」 大箱のカレールーと、小さい箱、メーカの違うものが並んだ 「混ぜるとうまいんだよな」 「じゃあ、野菜切ろっか」 「え、手伝ってくれるの?」 「いいよ、これくらい」 女は野菜を洗い始める、そうか、彼氏がいたんだもんな、手慣れた手つきで野菜を切る。 「お湯わいたよ?」 ポットに入れ替えた。 「ねえ、お肉は?」 「ミートは別、あ、溶かすの忘れてた」 「何のお肉?」 冷凍庫を開けてみると、鶏肉が入っている。男はうなだれてそれを出した。 「どうせ煮るんだから、ねえ、耐熱皿ある?」 「あるけど、何するの?」 「溶かすのよ」 凍った鶏肉を耐熱皿に置き、ラップをかけた 「お酒か白ワインある?」 「お酒ならある、料理酒でいいだろ」 ラップを持ち上げ酒をいれレンジにかけた 男はじっと女を見ていた。 「そろそろ野菜煮えてきたよ、ねえ、炊飯器のスイッチ押した?」 「・・・」 「ねえ、どうしたの?」 「あ、いや」 チン 男はレンジを開けようとしたのを女は止めた 「まだ、そのまま」 ねえ、カレーのルー入れる? ねえ、ふきんどこ? ねえ、これいいの? 女の声が目の前にあふれ出す。男は後ろから抱きついた。 「いや、離して!」 「嫌だ、このままがいい、このままでいてくれ」 女は手を叩いたり、腕をつねったりする。 男の腕に力が入る。耳元にかかるあつい吐息、女は逃げ出したくなった。 「好きだ・・・好きだ、好きだ好きだ好きだ」 「イヤー、離して―」 男は暴れる女をキッチンから連れだした。 「もう、お前のママはこないんだ」 「当たり前でしょ、ここは知らないもの」 「そうじゃない、お前はママから離れなきゃいけないんだ」 「何、何言ってるの?」 「もう、自由にしてやれよ」 その言葉に女はがくんとひざから崩れた。 「ママも一人の人間なんだ、お前だけのものじゃない」 「そんな、そんなことない」 わかっていた、私だけのものじゃないと 「だったらどうして、俺に鍵を預けたんだ?どうして、停電の夜お前を迎えに来なかった」 「ウソ、そんなのウソ、ママはそんな事・・・イヤ――――」 女は捨てられたと思った耳をふさいだ、また、大事な人に裏切られた、それが全身を突き破るような悲鳴となった。 ―イヤー離して―、イヤ―――― 「お前を捨てたんじゃない、大事だから俺に預けたんだ、ママは悪くない」 がくがくと震える女 「みお、みお、俺を見て、俺を見て」 男は女の前に座り、顔を持ち上げた。 「俺は、子供が出来ないんだ、君と同じなんだ、俺は男だ、だから君を守る」 男はキスをした。目を見て、抱きしめた。 「俺は捨てたりしない、絶対、俺の一生をかける、お前を守る」 女はペタンと力なくその場に座り込んだ。 男は、キッチンのガスを消し、戻ると女を抱き上げた。
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