13人が本棚に入れています
本棚に追加
act10
「これで終わりか?」
「うん」
「忘れ物無いか?」
「うん、みんなもった」
「健二―先行ってるぞー」「オー頼むは」
男は友人を連れてきた。レンタカーで借りた軽トラックに家具や家電を積みこんだ。
いらない物は、ネットで売り、少しの収入にした。立ち退きという事で前金やら何やらが戻ってきた。
「これ、少しだけど、ローンに使って」
ありがたく受け取った。
「・・・いこっか」
「うん」
何もなくなった部屋を見回した、約三年の想いで。扉を閉め。
鍵をかけた。女は新宿の町を後にした。
それから…。
「やべっ、遅刻!」
テーブルの上には、弁当、携帯、ハンカチ、そしてカバンが置いてある
全部紙袋に入れ走って駅へと向かう
「セーフ」
ボーッとしていた、起されたのは覚えていた、でもどこかの意識が飛んでいる。吊革にもたれながら思い出す。
―起きろー、遅刻するぞー、先行くからね、知らないよ
「うん、起きた、支度する」
「体起せ、ほら」
腕を引かれ、起き上がった
「二度寝は無し、じゃあね、行ってきます」
「いってらっしゃい」
(この後何したんだっけかな)
このところ、残業が増えた、四月になるといろんなものが改正になって仕事が増える、落ち着くのはいつも夏になるころ、九月の終わりに出会った女、好きになって同棲を初めて八か月、五月のゴールデンウイークも終わり、又忙しい日が続いていた。
「お、愛妻弁当、いいねいつも」
「まあね、かねないからさ」
「でも、マンション買ってんだからな、偉いよ」
「お前ん所も大変だろ」
「もうさ、夜泣き、朝方まで続くから、このごろカプセルばっかでさ、かねなくなるのはえーよ」
「でも、将来があるんだから、今かね掛けとけばさ」
「子供なんていらねーよ」
「あ、それすーげーむかつくんですけど」
「あ、ごめん、悪気はなかった」
「まあ、頑張れや、父ちゃん」
「お前もな」
「おうよ」
夕方五時半決まってメールが来る
―食事は?
―頼む
いつもの所へ行くと女が待ってる
「これ、ありがと」
昼に食べて空になったの弁当箱を渡す
「間に合った?」
「うん」
「はい、これ、大丈夫?疲れてない、ドリンクはいってるから」
「ありがと、今日は九時には終わるから」
「じゃあね、先かえるね」
夕飯の弁当、栄養ドリンク、あったかい飲み物、ありがたかった、カップめんを食べる同僚たちの横で、堂々と弁当を広げて食べる優越感。
三月の中ごろから、移動や何やらで、仕事が増えていった、休みの日はずっと寝ていられた。ゴールデンウイークもどこにも連れて行けなかった、二人で、ずっと部屋にいた、それでも楽しいとみおは言ってくれた。
掃除、洗濯、食事の支度、この頃はみんなしてもらっていた。みおには感謝していた。
約束の一年まで四か月、それまでに、男としてけじめをつけたかった。
最初のコメントを投稿しよう!