act2

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「あーあ、わかっちった」 男は後をついてくる。 ピロピロピロ トイレに入る、用を足して、考えた (そうだ、携帯用トイレ、売ってるよね) ジャ― 「長かったね、大の方?」 「・・・」 「シャツ色変わっちゃったね」 ビールをこぼしたのを忘れていた、白いシャツは茶色になっていた。胸の大きさがわかる、胸を隠した。ポケットからお金を出した、小銭、携帯用トイレは買えなかった。 (また来るか) 「マルボロひとつ」 ―ありがとうございました 「またタバコ、やめた方がいいよ」 ―ケンジ― (あっ、さっきの男、ダチ、かかわりたくない、めんどくさい) 「へーお姉さん、こいつとだったらよかったんだー」 男が肩を抱き寄せた。 「いいだろ、お前にやんねえからな」 「いいよ、俺いいの見つけた」 (こいつらめんどくさい) ―じゃあな わかれた男は、海の方へと向かった。 「いでででー」 女は手をつねった。 「いつまでも載せてんじゃねよ」 「ねえ、メルアドおせーて」 「携帯、もってないの」 「え、ウソ、マジで!」 「マジ」 男の足が止まった。少し早歩きで歩きだす。 ぐっと腕を掴まれた。 「ウソだよね、今頃持ってないなんて」 女は腕時計を見せた、男物のスポーツタイプ。 「ことは足りる」 腕の力が抜けた、すっと外れた、そのまま走りだし車に乗り込んだ。 ドアを閉めようとした、男の体がはさまる。 「痛いんですけど」 「しつこい!」 足でけろうとしてすかされ、その場に尻もちをついた。 「やっぱり女だな、甘いよ」 女はシートにどさっと、体を預けた。 「朝になったら運転しなくちゃいけないんだ、アルコールぬきたいから出ていってくれる?もう寝たいんだ」 「アルコールぬく?じゃあ、一回やる」 「(やっぱり)いやだ、寝る」 シートを倒し近くにあったママのスカーフを顔に乗せた。 「綺麗なすっぴんなのにな、もったいないな」 そういえば、ここ半年、女を捨てたかと思うほど化粧をしてない、化粧品もかってない、(リップだけか、それも薬用) 「フッ」 「あ、笑った」 スカーフを外す、目は閉じていた。熱い鼻息が顔にかかる。キス、さっきのビールの時とは違うやさしい感じがした。 シャツの中に手が入ってきた。 「細、何でこんなでっけーシャツ着てるんだ?」 パーン 「いってー」 女は男の顔をひっぱたいた。 「なんだっていいじゃない、大声出すわよ!」 「いいよ、出してみなよ」 男は唇を重ねてきた。 (くそっ、舌入れてきたら噛んでやる) 舌が入ってきた。思い切り口を閉じようとした、顎に手が伸びる、口を閉じることが出来ない。 (くそっ) ブラジャーのホックに手が伸びた。やめた、かったるい、こんな男のために、あほくさ、ばかばかしい、女から力が抜けた。 「観念したんだ」 横を向いた。 ビールで染まったシャツを脱がす。車が通るたび車内が明るくなる。 男の手が止まった。 胸には刃物で傷をつけたようにいくつもの傷がある、その下の方、腹には大きな手術の痕 男は自分の着ていたシャツを脱ぎ女のシャツを着た、女の首に自分のシャツをかけた。 「ごめん、悪ふざけが過ぎた」 「私のシャツ・・・ブラは?」 「ブラ外したら俺の着れるだろ、この店行くよ、じゃあな」 男はブラジャーをズボンのポケットにねじ込み車を出ていった。女はあわてて、男のシャツに袖を通し、車をロックした。 ほっとした。何もされなかったことに、シートを戻して足を抱えた。アルコールが回る、そのまま眠ってしまった。 ピピピピー 「ん?携帯・・・はい」 ―ミーちゃん、外、帰りましょ 目をこする、外には店のみんながいた。 「お帰り」 「あれ、シャツ着替え持ってたの?」 「う、うん、楽しかった?」 「えーそりゃもちろん」 「よかったね、帰れる?」 「帰りましょ、今晩はお店開けなきゃ」 遊び疲れたのか、みんな車の中で眠ってしまった。 「ヒロちゃん。着いたよ、帰れる?」 「ここ何処?」 「新宿、西口」 駅前、もうこんな所まで帰ってきていた。 「ワー、ごめんねぇ、ここまで運転させちゃった、ありがと」 「いいの、いいの、ママ、ありがと、後でメールするね」 「ばいばい、またね」 「うん、じゃあね、みんな楽しかった、バイバイ」 駅前で別れる、住(すみ)かへと向かった、男の匂いがするシャツ、ノーブラで胸が揺れる、前を隠し急いで帰った。 しばらく店に行かなかったが、ママにだけはメールを送っていた。あの男が来る、それだけで足が向かない。ありがとうの言葉と仕事の忙しさを言い訳にして。一か月がたとうとしていた。
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