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飲食店の素人の俺の目にも、あまり繁盛しているとはとても見えなかった。
応援というわけではないが、自宅の近くという気安さも手伝って、週に一、二回は通うようになっていた。
いつもは独りで、カウンター席へと座るのが俺の常だった。
『居酒屋はるな』はまだ開店、又は改装して間もないのかも知れない。
五人掛けと小さいながらも白木のカウンターは真新しく、眩しかった。
その上に灰皿は置かれていなかったし、相応しくないと思った。
しかし、今夜は月橋と二人だった。
店主のご好意で、四人掛けの、一番奥の席を使わせてもらっている。
今夜、俺がこの店に決めたのは、飲み物以外を注文しなくていいからだった。
『居酒屋はるな』には、三種類の値段設定のコース以外のメニューは、飲み物しかなかった。
込み入った話をするには、その方が便利だと思ったからだった。
カウンター内へと向かって、片手を上げる。
程なくして、足音もなくやって来た店主へと俺は告げた。
「辛口のしっかりめの日本酒を、冷やで。とりあえずは一合。お猪口は二つ」
ちなみに、この店のドリンクメニュー酒類の欄には、総称と値段としか書かれていない。
『日本酒一合 八百円』といった具合だった。
店主に、自分の好みを伝えるかしてオススメの銘柄を聞き出し、注文をする。
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