オススメの酒(あくまで一例)

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 戻ってみると月橋はテーブルの上に突っ伏して寝ていた――。 傍らには店主が、両手のコップを持て余したように立ち尽くしている。 「今、起こすからっ!」  慌てる俺に対して、店主はあくまでも平らかだった。 声だけ言葉だけで、俺を制する。 「いえ、このままで――。気分が悪そうには見えないが、タクシーを呼びますか?」 「――それじゃあ、お願いします」  俺は素直に、頭を下げた。 店主はうなずき、水を入れたコップを持ったままカウンター内へと戻っていった。  俺もその後に従い、カウンター席へと腰を下ろす。 途端に、色いろな力が抜けた。 大きなため息を一つ吐いた俺に、電話をし終えた店主が言う。 「十五分くらいで着くそうです。――何か、飲みますか?」 「じゃあ、水を。これでいい」  カウンターの上に置かれていた薄張りのコップを指差す。 表情こそは変えないものの、店主が心配げな声で俺にたずねてくる。 「大丈夫ですか?」 「あぁ、大丈夫だ。おれまで酔ったわけじゃない」  店主は、不意に俺へとたずねてきた。 「――幼なじみですか?」 「え?いや、会社の同期で同僚だ。でも、どうしてそう思うんだ?」 「気心が知れていて、気安い感じがしたもので。野宮さんが誰かを連れてくるのは、確か初めてでしたよね?」 「気心、ね――。最近何だか様子がおかしいから聞き出してやろうと思っていたのに。まんまと逃げられた」
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