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包みはご丁寧にも、二個あった。
おそらくはもち米だけで炊かれただろうそれは、だし遣いも塩加減も上品な薄味だろう。
以前、食べた時はとても美味しかった。
煮物もタケノコで、〆のご飯ものもタケノコということは、今夜の天ぷらも汁物も又、以前と同じくタケノコだったのだろうと、俺は想像する。
それらの美味しさも合わせて、舌の上に思い出されてきた。
『居酒屋はるな』の店主こと、榛名修繕氏は刺身包丁や出刃包丁が似合う、いかにも男らしい大きな手をしていた。
その手ずからにしては、タケノコご飯のおむすびは小振りで、――何とも可愛いらしい。
いかにも残念そうな口調を作って、俺は月橋へと言う。
「店主の故郷の名産で、毎年この時季になると送ってもらうんだと。去年は、フルコースで食べたんだけどなぁ・・・・・・天ぷらもみそ汁も旨かったなぁ。昨日も多分、出るはずだったのになぁ」
月橋がうつむいたままで、ポツリとつぶやく。
「でも、もうあの店に行けないから、食べれないよな」
「はぁ?何でそうなるんだよ?」
「だって、おれ、寝ちゃったし――」
「また来てくださいって、言われたぞ?お連れの方も、ご一緒にって」
「え・・・・・・?」
「――おまえのことだよ、月橋。幼なじみですか?って聞かれた」
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