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「なんてことしてくれんだ」
開戦の狼煙とばかりに口を開いたのは、両者同時でした。
「どういうことだ」とこれまた、両者の叫びが見事にハモりを決めてみせます。
仕方なく、村人代表の一人が土地神様に先を譲る仕草をすると、土地神様もこれはどうもと会釈で返してみせました。
この辺りの礼儀は、さすが大人の話し合いというところでしょうか。
「ノックもせずにお社に手を突っ込んで足から引きずり出すとか、控え目に言ってどうかしてるでしょ。むしろよく初手で掴めたもんだな、普通に怖いわ」
先手を譲り受けた土地神様が、暗黙の時代設定を無視して、横文字まじりに切り出します。
「事が済んだら謝りますので、とにかくこの雨を止めてください」
村人たちも負けじと食い気味に答えます。ノックなる単語の意味するところなど、どこ吹く風の剣幕です。
「いやいや。雨降らせろって言ったのはおたくらでしょうよ」
「確かにそうです。がしかし、これはあんまりだ。事と次第によっちゃ、いくら土地神様でも勘弁なりませんよ」
村長をはじめとした二十人ほどの村人代表が詰め寄ります。
あまりの勢いに、土地神様は斜め左上に目を泳がせると、人差し指を立ててこう言いました。
「そもそもさ、語呂が悪かったよね。これは確かに読めちゃうわ、ひでりむら。雨なんかいりませんみたいな」
「そこは問題にしていません。露骨に話を逸らさんでください」
「問題なかった? ちなみにわしが名付け親のご先祖だよ。今は色々あって土地の神様やってます。よろしくね。いやあよかった、名付け親的にはちょっと気にしてたんだよね」
村人たちが「なんだって」「あんたが付けたのか」と拳を握り締めます。
あ、これは沸点どっかに置いてきちゃってるわ。
危険を察知した土地神様は、緩み切った表情を真剣なものにきりりと戻し、しかして緩い口調はそのままに、説明にかかることにしました。
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