雨乞いの乱

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「わかったわかった。おたくら、何人だっけ?」 「どういう意味だよ」すっかり丁寧語を忘れて奥歯をぎしぎしと鳴らしながら、村人の一人が答えます。 「全員でさ、何人だっけって。ああえーと、全員ってほら、雨乞いをやってくれた人は?」 「それなら! 動ける大人をかき集めて、二百人ばかしでやりましたとも! 村始まって以来の、それはもう盛大な」 「おけおけ、そのへんでよきにはからって。つまりそういうことなの。わかるでしょ?」 「いや、わかりませんって」  村人たちは、今にも掴みかからんとする形相です。  相手が曲がりなりにも神様でなければ、とっくに手が出ていたことでしょう。  なんなら、手はもう出した後です。お社から引きずりだしているのですから。 「たった一日で構いません、村に畑に、雨をどうか」 「その通りだ。それなのにもう、十五日もざんざん降りだ。これじゃいくらなんでも」 「だから、お願い通りなんだって。二百人ちょいが一日ずつ、雨がほしいって言ったんでしょ?」 「いや、はあ?」 「あと百九十三日、きっちり降ったら止むからさ。それじゃ、そういうことで」  すいと浮かんで消えようとする土地神様を、最前列の五人がむんずと掴んで引き戻します。  この飄々とした御仁は、なんと言ったのか。 「あと百九十っつったか?」 「百九十三ね」 「村が沈んじまう!」 「いやいや、知らんがな。村の浮き沈みは願いに入ってなかったよね?」
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