77人が本棚に入れています
本棚に追加
ノウサギの知識はなくても、ウサギとしては大きい方だと判る。
「そもそも、人間なんだし」
「でもウサギって判るのかなあ、ヒトの姿をしててもフーフー言いながらお尻ゆらゆらして戦闘態勢に入るんだ」
「そりゃ大変だ」
美桜だって本当に怒った猫は怖いと思う、それが食い殺してやろうと言わんばかりに威嚇されれば、はるかに恐怖が増す。
「でも中田は人でも十分大きい方だよ、わ!って脅かしちゃえばいいのに。あ、でも愛猫家に虐待って怒られちゃうね。ああ、違う違う、この髪がね、猫の毛みたいって言ったの。ああ、でも実際の猫の毛ってもっと堅いよね。むしろ中田のウサギの姿の時の方が滑らかで柔らかかったと──」
仰向けに横たわるウサギを撫でまわしていたのを思い出し、急に顔がほてり出す。
(あれが、今の姿だったら……)
思い出しかけ、慌てて頭を振って追い出した。
「はい、おしまい! ごめんね、ぐちゃぐちゃにして」
「ううん、撫でられるの好き」
言って優兎は笑顔で自分の髪を撫でた、梳かしたての髪は滑らかで心地よい。
「あはは、判る。美容室行くと気持ちいいもんね」
子供の頃は母に毎日髪を結ってもらっていた、その時はそんな風に思ったことはないのに、不思議と今なら思うのだ。
「梳かしてあげる」
優兎が言って笑顔で手を差し出した、ブラシを寄こせと言うのだろう。
やってもらいたい、と思った感情を押し殺した。
「そんな時間ないよ、早く帰らないと」
スマホの時計を確認した、もう19時を10分も過ぎている。
ロッカーに鍵をかけ、照明を落として物理室にも鍵をかけた。職員室へ行くと野原のほかにも数人教諭が残っている。野原もすっかり帰りの支度は終わっているようで、立って待っていた。
「気を付けて帰るのよ」
鍵を受け取りながら言う、美桜も優兎も挨拶をして一階の通用口へ向かう。野原は鍵を管理しているロッカーへ向かった。
通用口の脇の用務員室に声をかけ通用口のオートロックを外して外へ出て数歩行くと、優兎が声をかける。
「家まで送るよ」
「え、別にいいよ。中田こそ、家、どこ?」
「うちは近所」
そう言って海の方を指さした、横浜中華街近くの学校で繁華街のど真ん中だが、住宅も多い。
「じゃ早く帰らないと──」
「満月の晩は大丈夫」
最初のコメントを投稿しよう!