【十五夜・月齢14.3・スーパームーン】

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優兎が満月の夜は浮かれてしまう事は知っている、月が出ている間は仕方ないのだろうと諦めているようだ。 「家、どこ?」 「うん、磯子の山の上なんだけど」 通学路としては関内駅まで行って地下鉄で上大岡駅まで行き、そこからはバスか徒歩になるが、バスはあまり本数がないので美桜は歩いていた。確かに夜道は暗く、人通りもたっぷりあるわけではないが。 「大丈夫だよ、うちも慣れっこだから。少しくらい遅くなっても心配なんて」 学校での観測も度々やる、そのたびにこれくらいの時間にはなるのだ。 「俺が送ったほうが早いよ」 「え?」 言った時には二の腕を掴まれ、一気に空に飛び上がっていた。 「きゃあ! だからぁ!」 美桜は空を飛ぶことに慣れてはいない、いきなり宙に浮かべば不安になる。 「大丈夫、掴まって」 優兎の笑顔に騙された、文句を言いたくなる口を閉じ、両手で優兎のジャケットを掴む。ふたりは数十メートル上空で水平飛行に移ると、スピードを上げて移動を始める。 そのほんの数秒前、美桜が家の場所を説明している間に野原も通用口にやってきた。 「まあ、まだいる」 別れがたいのだろうとは思った、きちんと家の場所までは知るわけではないが、美桜は電車通学で、優兎は徒歩だと知っている。 「でも、時間も時間だし……」 本来の部活動の時間からは外れている、早く帰さなくてはと思いながら用務員に声をかけ、ドアを開けようと視線を戻した時には、ふたりの姿はなかった。 「──あら?」 一瞬でいなくなったような気がした、ドアを開け門扉に向かう間に左右を見るが、どこにもふたりの姿はない──若い子は歩く速度も速いのかとくらいにか思わなかった。 ふたりは抱き合うように空を飛ぶ。そこには障害物はない、スピードも歩くよりはるかに速い。電車の待ち時間もなく、そもそも直線で来れるのだ、わずか10分ほどで磯子の高台にある住宅街の中の我が家に着いた。 静かに着地し、足の裏に地面の感触を感じてから美桜は手を離す。 「あの、ありがとう」 手を後ろに隠した、優兎のぬくもりを背後できゅっと握り締める。 「いいえ。また明日ね」 明日も逢えるのか、そう思うと自然と笑顔になった。 「うん、明日」 「おやすみ」 「うん、おやすみ」 「俺はまだ帰らないけどね」 「え?」 優兎の体がふわりと浮いた。
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