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【十六夜・月齢15.3】
美桜は横浜市営地下鉄の関内駅から歩いて登校する。もう1ブロック歩けば学校と言うところで、前方にみのりをみつけた。先に見つけたのはみのりだ、立ち止まり手を振っている。みのりはJR石川町駅を利用している、横断歩道を渡っている最中に美桜に気付いたようだ。
「あれからすぐに帰ったの?」
挨拶の後、みのりが聞く。
「ううん」
即答してから急激に思い出した、優兎との夜空の散歩を。浮遊感と共に優兎の体温に触れた時の喜びを思い出して、心臓がその場所を主張し始める。
「あ……っ、うん、少し月とか見てから、帰っ……」
「そうなんだ、ホントに好きだね。ああ、帰ると言えばさ、中田、いなくちゃったんだよね。つか私が下りて行ったらまだいてさ。家は反対方向だって言う中田を萩原たちが離さなくてさ」
やはり狙われていたのかと、判る。
「んじゃ駅までねとか言って歩いてたのに、気がついたら石川町着く前にいなくなってたの。帰るならさよならくらい言えよって思わない? 本当に自由な男だよ」
「う、うん、そだね……」
そうして自分の所へ飛んで戻ってきてくれたのだ、そう思えば嬉しくなってしまう。自由な男だが、あそこで美桜を家まで送ってれくれたことを思えば、優しい男でもある。
(本当に、優しいウサギ、だなあ)
思うと自然と笑みが零れた、それをみのりは見逃さない。
「なによお、中田とふたりっきりになろうとしてたの邪魔されて怒ってるかと思いきや、意外に機嫌いいじゃん」
「別に……ふたりきりになりたかった、わけじゃ……」
否定するが、どうにも弱いと自分でも思う。
「あ、そう! ねえ、聞いて! ケンゴと仲直りしたんだ! やっぱり浮気だったんだけど、ごめんって言うから、許してやったの!」
「そっか、よかったね」
そんな話をしながら学校へ向かう、そこからなら既に学校の敷地の端だ、すぐに校内へ続く正門が見える。
ふと目をやると前方から長身が目立つ美丈夫がやってくる、優兎だ。優兎もあっと言う顔になった、気づいたのは同時だったが、声を張り上げたのは優兎だった。
「美桜! みのり! おはよう!」
よく通る声だった、美桜は小さく手を振って返す、みのりは背伸びまでして手を振った。歩くスピードが上がったのを美桜はみのりのせいにした、正門に入らず待っていた優兎と真正面に会う。
「おはよ。朝から元気ね」
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