【十六夜・月齢15.3】

2/7
前へ
/101ページ
次へ
みのりが呆れ気味に聞く。 「うん、充電完了してるから」 にこやかに言う隠された意味を美桜だけが知る。 「中田、昨日は挨拶もいなくなるなんて駄目じゃん」 「えー近くの人にはバイバイって言ったよ?」 優兎は笑顔で嘘をついた、ウサギのくせにそんなことができるのか、と思ったが、そもそもウサギであることを隠しているのだ、その為の嘘ならいくらでもつくかもしれない。 「みのりには聞こえてなかったんでしょ?」 「いいえ、他のみんなも一緒に探しちゃいましたぁ!」 「そもそも駅までって言ったじゃん。駅は見えてきたらバイバイって言ったのに」 小さな喧嘩が始まる事に、美桜は小さな苛立ちを覚える。 「大体、みのりは太一と仲良くしゃべってたんだから、いいじゃん」 太一も昨夜のメンバーの男子だ。 「でも、挨拶はきちんと、聞こえるように……」 「あのさ」 言い合いに美桜は割り込む。 「名前呼び捨てって、どうなの?」 「は?」 みのりと優兎の声が重なった。 「──って、ああ、そうね、中田って初対面から名前呼びだわね」 転入してきた初日からだったと記憶する。 「でしょ? すっごく仲がいいわけじゃないのに、しかも女の子相手ってさ、なんか……よくない」 「まあねえ。なんか慣れっこになってたけど、やっぱり異性とは特別な関係ならまだしもだわ」 みのりの賛同に美桜は大きくうなずく、優兎は首をかしげた。 そもそも名前の意味など知らなかった、拾われてからつけられたのだ。いざ養子になり『中田優兎』という名前になったと言われてもよく判らなかった。 両親が『優兎』と呼ぶからそういうものだと思っていた。周囲が姓で呼ぶことに違和感がないこともなかったが、それで世の中が動いていることも理解できた、でも自分は変えるつもりはなかった、が──。 (美桜、怒ってる) それは判った、美桜にだけは嫌われたくはないと思った。 『すごく仲がいいわけじゃないのに。特別な関係ならまだしも』 ふたりの言葉が脳内を駆け巡る。 (『同じクラス』は『仲がいい』とは違う) それは理解できる、そもそも優兎は違うクラスの者でも名前で呼んでしまうが。 (仲がいい……) 改めて考えてみればなんとなくだが判る。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加