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みのりが呆れ気味に聞く。
「うん、充電完了してるから」
にこやかに言う隠された意味を美桜だけが知る。
「中田、昨日は挨拶もいなくなるなんて駄目じゃん」
「えー近くの人にはバイバイって言ったよ?」
優兎は笑顔で嘘をついた、ウサギのくせにそんなことができるのか、と思ったが、そもそもウサギであることを隠しているのだ、その為の嘘ならいくらでもつくかもしれない。
「みのりには聞こえてなかったんでしょ?」
「いいえ、他のみんなも一緒に探しちゃいましたぁ!」
「そもそも駅までって言ったじゃん。駅は見えてきたらバイバイって言ったのに」
小さな喧嘩が始まる事に、美桜は小さな苛立ちを覚える。
「大体、みのりは太一と仲良くしゃべってたんだから、いいじゃん」
太一も昨夜のメンバーの男子だ。
「でも、挨拶はきちんと、聞こえるように……」
「あのさ」
言い合いに美桜は割り込む。
「名前呼び捨てって、どうなの?」
「は?」
みのりと優兎の声が重なった。
「──って、ああ、そうね、中田って初対面から名前呼びだわね」
転入してきた初日からだったと記憶する。
「でしょ? すっごく仲がいいわけじゃないのに、しかも女の子相手ってさ、なんか……よくない」
「まあねえ。なんか慣れっこになってたけど、やっぱり異性とは特別な関係ならまだしもだわ」
みのりの賛同に美桜は大きくうなずく、優兎は首をかしげた。
そもそも名前の意味など知らなかった、拾われてからつけられたのだ。いざ養子になり『中田優兎』という名前になったと言われてもよく判らなかった。
両親が『優兎』と呼ぶからそういうものだと思っていた。周囲が姓で呼ぶことに違和感がないこともなかったが、それで世の中が動いていることも理解できた、でも自分は変えるつもりはなかった、が──。
(美桜、怒ってる)
それは判った、美桜にだけは嫌われたくはないと思った。
『すごく仲がいいわけじゃないのに。特別な関係ならまだしも』
ふたりの言葉が脳内を駆け巡る。
(『同じクラス』は『仲がいい』とは違う)
それは理解できる、そもそも優兎は違うクラスの者でも名前で呼んでしまうが。
(仲がいい……)
改めて考えてみればなんとなくだが判る。
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