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優兎の訂正を諫めてさらに言葉を重ねようとした美桜に、岡本たちは舌打ちだけしてその場から離れる。部外者に目の前であれやこれやと言われるのは腹が立つものだ。
「ほらあ」
諫めるタイミングを逃した美桜が憤るのを聞きながら、優兎は引き戸を開け中に入っていく、その反対側の引き戸から出て行ったのは、昨日の観測会も一緒に来た萩原たちだった。
「岡本ー」
声をかけると、岡本のグループは止まり振り返る。萩原はニヤニヤしたまま近づいた。
耳元に口を寄せ、何か語る。
☆
翌日の土曜日、昼間はみのりと遊び、帰宅した美桜は夕飯も風呂も終え、自室でくつろいでいた。
ベッドに横たわりパズルゲームをしていると、窓がコンコンと鳴った気がした。それは何かぶつかったのだろうかと気にも留めなかったが、続いてコンコン、と鳴ったのには背筋が凍る。
(──え……っ、心霊現象?)
二階の窓だ。腰高のその窓にベランダはなく、手すりも庇もない。どくどくし始めた心臓を懸命に抑えようとすると、再度コンコンと鳴った。
「嘘でしょ……!」
絶叫を堪えて叫んだ時、
「美桜ー? いないー?」
呑気な聞き覚えのある声がする、美桜は必要以上にがっくりした、むしろ驚かされた怒りが湧く。その怒りのまま閉めていたカーテンを開けた。
雨戸はない、その窓ガラスの外に優兎が浮かんでいた、初めて見る普段着にわずかにどきんと心臓が跳ねあがるが、すぐにはたと思い出す。
「え、ちょ……! こんなとこ飛んでたら、バレるじゃん……!」
慌てて窓を開け、優兎の腕をひっぱった。
「中、入って!」
「えー、それより、散歩に行こうよ」
優兎の腕を掴む手を、逆に掴まれてしまう。
「え、散歩って……!」
「月がきれいだから」
そう言って東の空を指さした、少し欠け始めたと判る月が地平線を離れた頃だった。
「でも……!」
「ちょっとだけ」
優兎はふわりと微笑む、やけに大人びた笑みだった。
「美桜とふたりきりになりたい」
大胆な願いをさりげなく言われ、美桜は頬を染めつつも頷いていた。
笑顔で差し出された手に、自身の手を重ねていた。もう一方の手は優兎の腕を掴んだまま、体がふわりと浮かび上がる。
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