【十六夜・月齢15.3】

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優兎の訂正を諫めてさらに言葉を重ねようとした美桜に、岡本たちは舌打ちだけしてその場から離れる。部外者に目の前であれやこれやと言われるのは腹が立つものだ。 「ほらあ」 諫めるタイミングを逃した美桜が憤るのを聞きながら、優兎は引き戸を開け中に入っていく、その反対側の引き戸から出て行ったのは、昨日の観測会も一緒に来た萩原たちだった。 「岡本ー」 声をかけると、岡本のグループは止まり振り返る。萩原はニヤニヤしたまま近づいた。 耳元に口を寄せ、何か語る。 ☆ 翌日の土曜日、昼間はみのりと遊び、帰宅した美桜は夕飯も風呂も終え、自室でくつろいでいた。 ベッドに横たわりパズルゲームをしていると、窓がコンコンと鳴った気がした。それは何かぶつかったのだろうかと気にも留めなかったが、続いてコンコン、と鳴ったのには背筋が凍る。 (──え……っ、心霊現象?) 二階の窓だ。腰高のその窓にベランダはなく、手すりも庇もない。どくどくし始めた心臓を懸命に抑えようとすると、再度コンコンと鳴った。 「嘘でしょ……!」 絶叫を堪えて叫んだ時、 「美桜ー? いないー?」 呑気な聞き覚えのある声がする、美桜は必要以上にがっくりした、むしろ驚かされた怒りが湧く。その怒りのまま閉めていたカーテンを開けた。 雨戸はない、その窓ガラスの外に優兎が浮かんでいた、初めて見る普段着にわずかにどきんと心臓が跳ねあがるが、すぐにはたと思い出す。 「え、ちょ……! こんなとこ飛んでたら、バレるじゃん……!」 慌てて窓を開け、優兎の腕をひっぱった。 「中、入って!」 「えー、それより、散歩に行こうよ」 優兎の腕を掴む手を、逆に掴まれてしまう。 「え、散歩って……!」 「月がきれいだから」 そう言って東の空を指さした、少し欠け始めたと判る月が地平線を離れた頃だった。 「でも……!」 「ちょっとだけ」 優兎はふわりと微笑む、やけに大人びた笑みだった。 「美桜とふたりきりになりたい」 大胆な願いをさりげなく言われ、美桜は頬を染めつつも頷いていた。 笑顔で差し出された手に、自身の手を重ねていた。もう一方の手は優兎の腕を掴んだまま、体がふわりと浮かび上がる。
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