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まもなく母ウサギは3つ子の兄弟を産んだ。初めの2羽は、体を覆う毛は母と同じ茶色だったが、最後に生まれた子はなぜか雪のように真っ白だった。
このあたりのノウサギは冬でも白い毛にはならない。見慣れぬ毛色に母ウサギは一瞬きょとんとしたが、すぐに羊水で濡れてたその毛を舐めて乾かし始めた。
色は違っても自分が産んだ子に間違いない。毛がすっかり乾くと、子供たちに乳を飲ませ始めた。
☆
月は少しずつ欠けていき、やがてまたゆっくりと満ちていく。
仔ウサギたちはすくすく育っていた。食事から戻った母のおっぱいに一斉に飛びつき空腹を満たし、腹が膨れれば兄弟そろって固まって眠る。
眠りながらも長い耳を動かすと遠くのいろんな音を聞くことができた、葉がこすれ合う音、他の動物が歩く音、お母さんが帰ってくる音……昼も夜も賑やかだと思った。
白い仔ウサギもまた。
すやすやと眠っていると、空から音が降ってくるのが聞こえた。なんの音だろうと見上げると、その先には真っ暗な空に真ん丸の月があった。じっと見ていると吸い込まれそうになって怖かった、慌てて兄弟の体に顎を乗せて寝直そうとした、だがどうにもそわそわする、体の奥底がむずむずするのだ。
そのせいで眠れることができない、何とか追い出そうと全身を震わせると──ぼん、と何かが破裂する感覚があった。辺りを見回すと、見慣れた景色が少し高みから見ていると判る。ふと寒さを感じて体を見下ろした、いつも母が毛づくろいをしてくれる白い毛がない。
「……⁉」
前肢を持ち上げた、薄いピンクの肌が露出している、いつも顔を撫でている手とは違う形のものがそこにあった。細い指と大きな手の平──ヒトに会ったとこがない仔ウサギはそれが人の手だとは判らない。
手だけではない、跳ねるために発達した大腿も細くなり長い脚がある、腹にも首にも毛はなく、仔ウサギは不安になって頭頂部も触れた。
「──!」
いつもいろんな音を聞かせてくれる、自由に動く耳がない。
全身から血の気が引いた、変な病気にかかったのか、自分はこのまま死んでしまうのか……!
寒さと恐怖に体を震わせると、背中をなにかで突かれた、慌てて見下ろすとそこには母がいた。気配に兄弟が目を覚まし、母の乳に食らいつく。
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