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聞かれたので素直に答えていた、そんな無邪気さに美桜の頬に朱が上る。美桜の母はにこにこと笑顔で聞いていたが、やはり年齢にそぐわない幼さを感じていた。しかし言及はせずにふたりを送り出す。
「んもう……わざわざ迎えに来てくれなくても」
美桜は優兎の顔を見れないまま言う。
「別にどうってことないよ、少しでも美桜といたいし、飛んでくればすぐだし。じゃ」
と言って美桜の手を掴む。
「え?」
「ひとっ飛び!」
言って地面を蹴った、ふたりの体は急上昇していく。
「わ、だ、駄目だよ! こんなとこで……!」
慌てて眼下を見下ろした、幸い人影はない、そんなことは見越して優兎も飛んでいるのだろう。
「ねえ! 夜とは違って目立つでしょ! やめたほうがいいよ!」
声が風で後方に流された、優兎は間近で微笑む。
「みんな、意外と空なんか見てない。特に朝なんて駅に向かうんで忙しいんだ」
「でも……!」
全員が全員ではないだろう、天気を確認しようとする者くらい、いるはずだ。
「大丈夫、見えても誰も気しない」
「そんな……!」
まさしく未確認航空現象と思っておしまいなのだろうか──そんな事過信できない美桜は、ただ優兎の腕の中で小さくなった。
数分後、学校の屋上に到着する。
「もう……心臓止まるわ」
美桜はばくばくと動く心臓を押さえながら言った。ひとりでは自由に降りることもできない、下ろしてと騒いで本当に適当な場所に着地などすれば人に見つかり大騒ぎだろう。
「空飛ぶのはもう慣れたかと思った」
優兎は呑気に言う。
「飛ぶこと自体じゃなくって、明るい中飛ぶ神経がしれないってことだよ! しかも屋上なんて、どうするの⁉」
「大丈夫だよ」
優兎はスキップでもしそうに歩き、塔屋へ近づいた。仮に鍵があっても錠は外からは開かない機構だ、だが優兎はそこへ手の平を近づける。途端にカシャンと音を立てて錠が外れた。
「え?」
「こういう力だから」
優兎は錠を開けた右手をひらひらさせながら、左手で引き戸を開ける。
「うーん、便利と言えば便利……」
優兎のような人間だから──ニンゲンではないが──悪用することがないのだろうと思える、素直を絵に描いたような性格だ。勝手に屋上の錠を開けるのは悪用ではないとは言えないが。
建物に入ると優兎は後ろ手に扉を閉め鍵もかけた、そしてすぐに美桜の手を取る。
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