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自分もお腹が空いた、そう思うが背中を丸めてみても乳のある場所が判らない。しくしくと涙が零れた、自分は本当に死んでしまうんだと思った。
しくしく泣くヒトの姿をした仔ウサギの足を、母が撫でる。
「……」
口は動くが、声は出ない。母はうんうんと頷いたようだった、それに安心し、母に額を押し付け目を閉じる。微かに乳の匂いがしたが、仔ウサギはそのまま眠ってしまった。
数時間後、夜明けを感じて目を覚ました仔ウサギはまず手を持ち上げて確認した、そこにはビロードのような白い毛がびっしり生えている、昨夜の事は夢だったのかと思えた。しばらくして母が戻ったので、お腹いっぱい乳も飲めた。そうしてまた仔ウサギは眠りについた。
仔ウサギたちが巣立ちしたのは、それから間もなくだ。ウサギの成長はヒトからすればあっという間だ、これからはひとりで生きていくのだ。
☆
満月を過ぎた月は徐々に欠けていき、そしてまた太っていく。
その満ち欠けに合わせ体の奥底から湧いてくる何かを仔ウサギは感じていた。そして再び真ん丸な月になった晩、また体がむずむずし始める、熱を感じた。
またアレになるのだと判った、嫌だと思うのに、全身の血液が沸騰するような感覚に武者震いが止まらない。そしてぼんっと破裂する感覚と共に、再度仔ウサギはヒトに変化した。
どうしよう、と思ったが前も勝手に戻った、それを待つしかない。
しかしヒトの姿も悪く無いと思ったのは、一歩が大きく移動が楽なのと、体も大きくきちんと掴める手のおかげで、ウサギの時よりも高いところにある草を取れるのが判った時だった。なによりフクロウやキツネは自分の姿を見ると逃げていくのは楽でいいと思えた、ただでさえ白いウサギは夜の森では目立つのだ、いつも危険にさらされていた。
☆
夏が過ぎ秋が来た、あふれる恵みは森に生き物に活力を与える。
白いウサギもまた。
この頃には、ヒトへの変化も自由にできるようになっていた、またそれは月齢1日目から15日までできると判った。新月をすぎると徐々に体が沸騰するように感じられた。またそれはヒトになるだけではない、見つめただけで物を動かせる力もあった。ある時、川の向こうのおいしそうな若草を見つけたのだ。川を渡るか……いや、草が来ればいいのに、と思ったら、本当に地面から抜けて飛んできたのだ、これには驚いた。
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