雨と笑顔とオムライス。

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「あなたは本当に泣き虫ですね」  なんで泣いていたのかは、もうぜんっぜん覚えていないけど、幼い頃。 「一度も笑顔でいるところを見たことがないです」  親戚一同が会した父方の祖母の家で、子供だったわたしは、きっと迷惑なくらいに泣きじゃくっていたのだろう。  叔父さんは、どこかイラついた様子で、どこか伺うような様子で、幼い頃のわたしに目線を合わせるよう膝をつきながら、至極優しい口調で。それでいてとても恐ろしい雰囲気で。 「可愛げのない子だって、よく言われませんか?」  わたしはギャン泣きした。  それから時が経ち、わたしは成長するにつれて、叔父さんとお父さんの関係は決して良好ではないことを知る。  仲がよろしくないことは親戚一同誰もが理解している程の事だったらしい。  お父さんは昔から傲岸不遜で、正直、あまり褒められた人格の持ち主ではない。プライドが高く、亭主関白であり、母に暴力を振るう姿は幾度も見たし、その押し殺した悲鳴を何度も聞いたことがある。  そんな父こそわたしに直接暴力を振るうことはなかったが、だが問題は母だった。  父がいない時間、いびるようにわたしを責め立て、やつ当たるように手をあげる母にわたしが泣けば、いずれ帰ってくる父が追い討つように「うるさい!」とわたしに言う。わたしに。  そして始まる二人の口論。  そのたびに、昔叔父さんに言われた言葉が、ガリガリとわたしの胸を抉るのだ。  笑顔になんてなれるわけがない。可愛がられたことなんて、そもそも一度もありはしない。  わたしのせいじゃない。なのにみんな、わたしに当たってくるのだから。 「お悔やみ申し上げます」  中学に上がって間もない頃。病に重篤化していたおばあちゃんが亡くなった。  口々に心ないお悔やみを長男へと申し上げる親戚のなか、こちらとは関わろうとせずにいる叔父さんにふと目があった。ずいぶん訝しげに見つめられた。  会ったのはかなり久しぶりなのに、叔父はまるで変わっていないままだった。 「あの頃よりもより暗い表情をしていますね」 「……」 「あなた、毎日楽しんでいます?」 「――っ」  叔父さんは不器用だけど、お父さんとは違って優しい人間だと思う。  観察眼があり、気を遣え、行動力のある人。  全然関わりのないわたしのために、今までずっと話さないでいた父と真っ向から向かい合ってくれた勇気ある人。  わたしはその日、叔父さんの目を見て言った。 「楽しくない。家出したいです」  それがわたしと叔父さんが、今のような生活を始めるようになった話。
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