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「――あの日より、あなたは随分と笑みを浮かべるようになりました」
粛々とした態度で、向かい合ったテーブル。一通りの流れを話すと、叔父さんはメガネをくいと持ち上げてから、わたしの目を見てそう言った。
「人生に晴れが続くことはありませんから。でも、止まない雨がないこともあなたはよく知っているでしょう」
叔父さんに救われて、今がある。やっと自由になれたと、笑い、怒り、日常を過ごして、楽しいことを指折り数えていたはずなのに。
「止まらない涙もなく、人は、前を向くしかないんです。待っていてもいつか晴れは訪れるでしょうが、それではあまりにも遅い。だから人は、雲の切れ間を目指して、その隙間に差す陽光をスポットライトとして。そうやって人は、主人公になっていかなければならない」
「……」
「私は当時のあなたに言いました。自分が幸せになれると思う道を選び続けなさい」
「……はい」
「あなたは、どうしたいのですか」
そう見据える叔父さんの眼は、わたしの本質を見抜こうとしているようで、少し嫌な印象がある。
それでもわたしは、訊かれた以上。彼を失望させないためにも、自分の心の底から願う安寧を主張しなきゃいけないと、そう思った。
息を吸う。動悸を正し、改めて。
「――わたしは、ここにいたいです」
叔父さんと暮して一年半近く。一般的に言えば思春期の時期を他人にも近いような関係の男性と生活するなんてありえないこととは思うけど、それまでのわたしは本当に、死んでいるようだったから。
ここにいたい。ここでなら生きてられる。
そう、思うから。
「よろしい」
滅多に見せない笑顔を見せてくれる叔父さんに、つられてわたしの口許もふっと緩む。
よかった。本当によかった。
とたんに、何かが胸の中に満ちていく。
そして。
「ではオムライスをお願いします。お腹が空きました」
「……」
このマイペースな感じはほんとキライ。
「だってあんな笑顔で行ってきますと言っていたのに、不機嫌になって帰ってくるとは思わないじゃないですか。お腹が空いてたまりません」
「はいはい」
一瞬でなんか、感動というか、尊敬というか、全部がスッと引いてしまった。
もう。
「じゃあ作るから、まっててね」
「はい。私は少しその間に用事を済ませておきますね」
ああ。
用事、というワードに隠された行動力に、ついつい熱いものが込み上げてたまらない。目尻を拭ってキッチンへと引き込む。
そこまでしてもらってるんだ。
「よし、作ろう」
だからわたしも、出来ることをしていきたいと思う。
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