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「――お待たせ」
「おう。買えた?」
「うん!」
白いユニクロの袋を掲げる君。ビルの出入り口。ガラス張りの扉のそばに君が来る。外はやっぱり雨で、梅雨の大雨はそう簡単にやんではくれないようだ。
「やまないね――雨」
「そうだな。そう簡単にはやまないよな――雨」
それでも、このビルに入った時に比べると、雨足は弱くなったみたいだ。
「やむまで――待つか?」
「うーん。でもそれって、帰れなくなっちゃうやつじゃない?」
「まぁ、完全には無理だろうな〜。でも、ちょっとずつ弱くなっていくっぽいし、一時間くらい時間を潰したらあまり濡れずに帰れるくらいの雨になるんじゃないの?」
検索した天気予報の画面を見せる。スワイプして雨雲レーダーの画面。
「あ〜確かに。一時間くらいで雨雲抜けるね!」
画面から顔を上げる君。人差し指で長い髪を後ろに回して耳に掛ける仕草。
僕は人差し指を立てて二階を指す。
「だからさ。久しぶりだし、ちょっと喋っていこうか? 二階にスタバあるみたいだし。三年ぶりに――」
君の驚いたような顔。やがて、そっと目が細められる。
「――いいよ。実は明日の出勤、昼からなんだ〜。だから、ちょっと遅くなっても大丈夫なの」
「え? いや、俺は普通に朝イチからだし。そこまで遅くなる気はないよ?」
「まー、それはそれ。じゃあ、いいじゃん。行こう!」
「そうだな。あ、ユニクロの袋、持つよ」
「いいよいいよ、さすがに! 彼氏でもないしね」
「――彼氏だったら持たせるのかよ?」
「そういうこと!」
そう言って君はエスカレーターへと歩き出した。
振り返ってガラス越しの大通りを見遣る。梅雨の時期。雨はまだ強く降っている。
「――やまない雨はない」
月並みな言葉を口にする。
あの日から三年間降り続けている雨も、いつの日かやむのだろうか。
その雨がやんだときに雲間から射した光の下で、誰かと紫陽花を見ることができるなら、その誰かはやっぱり君がいいなと思ってしまうのだ。
水滴に濡れる紫陽花をまた一緒に愛でることができればと思うのだ。
「――何しているの?」
エスカレーターの手前で君が振り返る。
「あ、ごめん。今行くよ」
僕はそう言って、君の後ろをまた追いかけ始めた。
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