やまない雨はない

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「――やまない雨はない」  月並みな言葉を口にする。  それはそうだろう。ある場所を雲が覆って雨を降らせ続けるには、海面からの無限とも言える水蒸気の供給がいるはずだ。もしそれがあったとしても空には風が吹いていて雲は西から東へと流れていく。どんな大きな台風だって過ぎ去ってゆくのだ。数年前、大規模な低気圧が本州西側から九州を覆って大きな被害を出した。そんな雨だって最後にはやんだのだ。だから、やまない雨はきっとない。  駆け込んだビルの内側から土砂降りの大通りをガラス越しに眺めている。そのビルの一階にはユニクロが、二階にはスターバックスコーヒーが入っている。学生時代からも時々立ち寄る施設だ。会社からの帰り道、降り出した大雨を避けるように、そんなビルの玄関口へと飛び込んだ。左手の黒い長傘からは雨水が滴り落ちて白い床をぽつぽつと濡らす。湿気を吸ったズボンが太腿に張り付いて気持ち悪い。革靴の中では水を吸った靴下がまとわりつく。むき出しの二の腕で顔を拭い、額に張り付いた前髪を中指で払った。  ああ、あの日もこんな雨だった。  もう三年経つのかな。  あの日、就職活動でようやく最終面接まで進んだ僕は「就職活動のことで伝えたいことがあるんだ」って思わせぶりなメッセージだけをLINEで君に送ると、返事も待たずに雨の中を君の部屋へと向かった。頭の中では小田和正の『伝えたいことがあるんだ』が鳴っていた。
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