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昼食にて
『二十歳まで育ててくれた親に、恩返ししたいですね』
店の端にあるテレビを見上げながら蕎麦をすする。汁がスーツに飛んでいないかを気になっていると、目の前の高井が振り返り俺の顔を覗き込んだ。
「成人式かぁ……柳田先輩も、親孝行とかしてるんスか?」
俺の後輩は高井昌明、二人で営業に出て半年になる。高井の教育をかねて外回りとはいえ、彼は俺が仕事の話をつけている中、後ろにただ隠れているだけだった。
俺が入社した当時はなりふり構わずがむしゃらだったが、最近の若者はそれが出来ない、本気で仕事しているように見えなかった、かといってそれを怒るとパワハラと言われかねない。
「親孝行? しねぇよそんなもん。ああいうのはな、まともに育てられた奴が言えるんだよ」
「じゃ、先輩はまともに育ってないんですか?」
「まあ、まともな親じゃないって所かな……ハハハ」
蕎麦を箸で掴むと俺は「おい」と、高井に早く食うように促す、彼も勢いよく蕎麦をすすった。
「じゃあ先輩の親ってのは、どんな人なんスか?」
「親? まあ一言で言えば、うざい……かな」
箸を持ったまま反り返る高井、
「先輩、そりゃみんな大体そうですよ、一言じゃなく言えば、どうなんスか?」
「午後から南南商事行くから、端的に話すぞ」
「はい」
高井は笑顔で顔を近づけた。
仕事の時もこのくらい積極的ならいいのだが……
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