鬼上司は健気な男

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鬼上司は健気な男

熱い吐息を漏らす潤った唇が呼ぶ声は鼓膜に心地良く濡れた睫と短く喘ぐ声は興奮を掻き立てた。  こめかみに汗を流し涙目で見つめてくるその表情は艶めいていて後光が差しているように周囲が白んで見える程だ。  しなやかな薄い筋肉を付ける体は同じ男から見ても感心してしまうくらいだが女性のような凹凸や柔らかみはない。けれど平らなその胸にぷっくりと勃った小さな突起がどんな豊満な胸よりも魅力的に見えた。  ゆっくりとした動きでシーツの上を這うその動作は先ほど終えたばかりの行為に体力を大分奪われてしまったせいだろう。  年齢的な差は体力に著しく現れる。まだ二十代前半の自分とは違いアラサー後半の彼にとって続けざまのSEXはひどく疲れるものなのは分かっていた。  だからと言って労わるような言葉を掛けると年寄り扱いするな、と怒られるし欲望のままにSEXに夢中になると俺を殺す気かと殴られる。  気紛れで扱いにくい同性の恋人に対して一体どうすれば満足させられるのか?と悩むのは日常となってしまっていた。  ヘッドボードに寄りかかり睨むような目つきで見つめてくる恋人に彼は脱ぎ捨てたバスローブを拾いながら気付いた。  「何だ?近衛」  近衛(このえ)と呼ばれた男がはっと我に返る。  「別に…」  煮えきれない返事はもう少し突っ込んできて欲しいと言う本音が含まれているが男は気付かないフリをしてバスローブを羽織った。  「ならいいが。シャワーを借りるぞ」  無視をされて近衛が慌てて話し掛ける。  「あ、待って。東雲部長!」  下着すらも履かずにベッドの上を這って近付いてくる近衛を東雲(しののめ)部長と呼ばれた男は見下ろした。  「今夜は…」  近衛の言わんとすることを察し東雲は微笑んだ。  「早朝会議があるから帰る」  即答で断られ開いた口の塞がらない近衛の唇に東雲は指の背で掠めるように触れると寝室を出て行ったのだった。
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