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鳴り続ける電子音、カタカタと落とされる点滴の薬液、酸素ボトルの泡音。
狭い病室のベッドの上で、お父さんはたくさんの管に繋がれて眠っていた。何をやってもお父さんは起きない。横を向けられても、鼻から管を突っ込まれて痰を抜かれてても、腕に何度も針を刺されても、私が話しかけ続けていても。
お医者さんは言った。「もう、亡くなるかもしれない」
それを聞いた時は頭の中が真っ白になった。
お父さんが死ぬ。
何分後か、何時間後か、何日後かは分からない。けれども、お父さんは死んでしまうんだ。ずきり、と胸が痛くなった。先日の手術の傷が、お父さんから肝臓を貰った傷が、痛んだ気がした。
生体肝移植。私は自分の悪くなった肝臓を捨てて、お父さんから肝臓の一部を移植してもらった。
お父さんは手術の後、麻酔から起きて来なかった。お医者さんからの説明では、ごくたまにそんな人もいるそうだ。手術は必ず成功する訳じゃないし、手術の後にも副作用みたいなことで死んでしまうことがある。手術の前にも、そう聞いていた。
だけど、やっぱりこんな形でお父さんが死んでほしくなかった。
あなたのせいでお父さんが死ぬんだ。誰かにそう言って欲しかった。
お父さんが亡くなったのは、それから二日後の夜だ。お父さんは夜勤の看護師さん、お医者さんに看取られて亡くなった。
お父さんの体からふわりと、お父さんの姿の魂が浮かんだ。
「お父さん!」
その声にお父さんは私の方を見た。そして悲しそうに言った。
「そんな、お前も死んでしまったのか。でも、まあ死んでしまったのなら仕方ないか。一緒にあの世に行くか」
うん、と私は頷きお父さんと手を繋ぎ、消えた。
「やはり、娘さんが連れて行ってしまったのでしょうか?」
病室に残された看護師が呟く。医師は無言で顔に手を合わせる。狭い病室から鳴り響く音はもう何もない。
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