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「坂本龍馬って知ってるか」
「……」
落とされた言葉は、思ってもみないものだった。肩から力が抜ける。
知らない訳なかろう、私は日本史選択だ。担任がそれを知らないはずが無い。
「雨が降ってきたからって走ることはない。走ったって、先も雨だ」
「……は?」
「いや……坂本龍馬が言った言葉」
「はぁ」
「何か今日もすげぇ雨だけどさ、どうせ俺たちにゃあ天気とか周りの環境とかそういうの、左右できる力なんてねぇだろ、だったらやりたい様にすりゃあいいんじゃねぇの」
それだけ言って担任は、気恥ずかしそうに横を向く。
何、励まそうとしてるの? この人。
涙を拭ってそっと盗み見たその横顔は、一刷毛朱に染まっているのが、見て取れる。ぽかんと口をあけて涙が止まった私を横目でちらりと見て、担任は自分の癖ッ毛をがしがしと掻きまわした。
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