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「あれさぁ、続きがあるんだけど、聞かない?」
そう言って彼は、私の腕を摑まえる。びくり、と強張る身体に、ふふっと笑って「復習ね」と再び言葉を落としていく。
「つい、二人っきりになりたくなってしまう」
“昼休み、理科室来な”
教室で伝えればいい内容なのに、貴方は、私をここに呼んだ。
「つい、励ましたくなってしまう」
“優等生、何に悩んでんの”
悩んでないという私の心を暴いて、照れながらも励ましてくれた。
「つい、腕を伸ばしてその頬に、触れたくなってしまう」
“じゃあ、何その顔”
冷たいその左手で、私の頬に触れた。
「泣いていようもんなら、その涙を掬いたくなってしまう」
“……観月”
彼の指は、私の透明な感情で濡れた。
そして、今。
私の強張ったままの身体に、ふわりと彼の腕が回る。
どくり、と心臓が共鳴する。誰かに見られたらどうしよう、という考えが脳裏を掠めたけれど、そう言えば今日は大雨だった。雨のベールが私達を包んでくれている。
そう思ったら、無意識のうちに、腕が回ってそのワイシャツの背を抱き締めていた。
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