青春の味

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キーンコーン、と授業終了の鐘が鳴る。起立、と日直が言う。 ガタンと椅子をずらして立ち上がりながら、自分の胸に手を当てた。ぎゅっとワイシャツを握った。窓の雨粒が入れ替わる間の時間だけ握って、少しだけ強張ったままの指を剥がすように手を開いた。気持ちが目に見えたらいいのに、何て陳腐な台詞を脳裏に浮かべた。 後ろに並ぶロッカーに歴史の教科書を片付けに行く為に、他の人の机の横を通り過ぎる。3人の女の子が固まって雑誌を覗き込んでいた。 ちらりと見えた2次元で笑っていたのは今を時めくイケメン。きゃーきゃー言いながらページを捲る様子を横目で見ながら、自分のロッカーを開いた。 その作られた笑顔と相反する不機嫌そうな淡白な顔が、脳裏に浮かんだ。 その事実を認めたくなくて奥歯を噛み締める。 開いたロッカーには、きちんと立ち並ぶ教材たち。その上に、まるで「早くしてくれない」とでも言うように鎮座しているのは、一枚のプリント。太く強調されたゴシック体で書かれた題名は「進路調査」と「〆切6月末」という文字。はぁ、とひとつ溜息を吐いて、理科の教科書と歴史の教科書を入れ替えた。
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