青春の味

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理科の教科書があった場所にぴたりとはまる歴史の教科書。打ち付ける雨が入れ替わるみたいだと思った。刹那、はらり、と落ちたプリント。その軌跡を追っていけば、ある腕に拾われる。ハッとした。 「あれ、観月(みづき)まだ出してないの、珍し」 低い声で差し出されたそのプリント。慌てて「ありがとう」と言って受け取る。不自然じゃなかっただろうか。 「それ昨日までだろ」 「うん……忘れちゃってた」 「お前も忘れる事ってあるんだな」 「そりゃ、人間だし」 何で出さなかったんだろうとか思われてないかな。そんな事を考えてどきどきと鳴る心臓にさっきの様に手を当てた。 誤魔化す為に、てへ、と効果音が付きそうなくらい無理に笑顔を貼り付けて笑って見せれば、まくった白シャツからこんがり焼けた腕を覗かせるクラスメイトは「そっか」と笑う。 自分が笑えば相手も笑うって事を知ったのはいつ頃だったろうか、もう忘れてしまった。
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