青春の味

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キーンコーンとチャイムが次の授業の開始を知らせる。慌ててロッカーを閉め、席に着く。その真っ新な紙きれを手に持ったままだと気が付いたのは理科の先生が教卓に教材をどさりと置いた時だった。 「せんせー遅刻」 「うっせぇ先生ってのはな、お前らよりおっさんなんだよ、敬え」 ひょろっとした背の高い猫背なその人は、次々と化学式を黒板に記す。カツカツという音が、雨音に混じって教室内を支配する。ああ、今日の雨もやまないな。そんな事を考えていた。 「観月」 直ぐ傍で、名を呼ばれる。気が付けば先生が私の横で腕組みをしていた。驚きで、ひゅっと空気が口内に侵入して、咳き込みそうになる。ぐっと飲み下すように喉を上下させ、声色を作って返事をする。 「……はい?」 「お前呼ばれたら来いよ」 「え?」 「お前だけだっつーの、進路調査出してないの」 「あ」 そう、この遣る瀬無い理科教員は、このクラスの担任、詰まり私の担任なのだ。
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