青春の味

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「ごめんなさい……出し忘れて」 「昼休み、理科室来な」 そう言って先生はくるりと黒板の方へ戻っていく。再開された授業に、何の疑いも持たないクラスメイトたち。 「観月、お前今日大丈夫?」 そう小声で尋ねてくれたのはさっきプリントを拾ってくれた、隣の席の彼。 「雨だから、ちょっとね」 「ならいいけどさ」 「ありがと」 そう小声で言って返す。雨はまだ、窓ガラスにモザイクを作る。 そっと、溜息が零れた。けれど、確実に脈打つ心臓。 だんだんと強まる雨音が、私の憂いを隠して融かして何処かへやってしまったかのようだった。
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