青春の味

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昼休み。 教室の丁度反対側の校舎、同じ4階。ノックをして耳を澄ませる。 「どーぞー」とこれまたやる気の無い声が中から聞こえる。からりと音を立てて開いたドアの先には、担任が机に向かって座っていた。 「あー、ちょい待ち、丸付けしてっからキリいーところまで」 そう言いながら、赤ペンを持っていないほうの手でちょいちょい、と手招きをする。隣の椅子を引き出して、そこを指さす。大人しくその椅子に腰かけた私は、シュッと水性ペンを紙に滑らせる担任をそっと見つめる。 綺麗な顔。純粋にそう思った。 彫刻の様な鼻筋、すっと切れ長の瞳。雨だからだろうか、いつもより強く癖の付いた髪がこの男をさらに別次元の人間の様に魅せていた。 「何、見てんの」 「別に何でもないです」 「あ、そ」 バタバタと強まった雨音が屋根を叩く。ああ、そう言えばこっちの校舎は4階建てで、ここは最上階だから、直接雨が天井を打ち付けている音がするんだな、と思った。
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