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3.倒れてくる塔!!
飛行機に乗り海を渡り、悠久とも思えるほどの長い時間をかけ、勇気と花子はついにこの地にたどり着く…!
「へぇ~、これがピッツァの斜塔か!」
「一度は見てみたかったんだよね~」
勇気は早速塔の前に立つ。
「花子ちゃん!写真とってよ!」
「りょーかい!」
パチリ。
「こんなに傾いてるー!」
パチリ。
「う、うわー、潰されるー」
パチリ。
「……ん?」
花子はカメラをおろし、不思議そうな顔をする。
「どうしたの、花子ちゃん」
「いや、なんかその塔動いてない?」
勇気は振り返り、塔を眺める。
「確かに……?」
「なんかあの塔、倒れて来てない?」
「あ…あぁ、マズいぞ花子ちゃん」
勇気は花子の手を取り走り出す。
「逃げるんだ!!」
塔はまっすぐこちらに向かって倒れてくる。
「とにかく走るんだ!」
「う、うん!」
たったかたったか。二人の軽快なステップは、まるでメロディを奏でるかのよう。
そんな二人に、ゆっくりと塔は迫ってくる。
えーっと、いけない。尺が。
……そういえば昨日の夕飯はうどんだった。もちろんカレーうどんだ。
濃厚なカレーがうどんに絡みつき、極上のひとくちを常に演出し続ける。
シメはそこにご飯をぶっ込み、チーズを乗せたらレンジでチンだ。
最後の一滴まで飽きさせないその罪深さは想像に易いだろう。
「ねえ、これ横に逃げればよくない?」
「あっ、ちょっ!!」
そ、それを言ってはいけない!!
「ナレーションまで。どうして横に逃げないのよ!」
「それは…、横に逃げちゃったら物語が終わっちゃうだろ!?僕達はこの倒れてくる塔だけで充分な尺を稼ぐ必要があるんだ!」
その通り。
「え、えぇ……」
「こうして横に逃げればいいところをあえてまっすぐ逃げることで、迫りくる塔から逃げる緊張感を保ちつつ尺を伸ばせるんだ!」
「ギャグにしか見えないけどね!!」
ああ……、これ以上なにを伝えればいいのか。
「諦めるなナレーション!」
「そ、そうよ!あなたが投げたら私達も一貫の終わりなのよ!」
……わかった、がんばる。
勇気は花子の手を引いて、全力で走る。全力が故に気が付かなかった。足元に落ちている小さな石に……。
「きゃっ」
「花子ちゃん!」
倒れてくる塔から逃げる最中の転倒……!
「花子ちゃん!立つんだ!」
「私の事はいいの!行って!!」
花子は勇気の手を振り払うように放った。
「……俺、花子ちゃんの分まで生きるよ」
「私の事、忘れないでね」
勇気は花子を背に走り出す。
「……行っちゃった」
花子は1人、勇気の背中を見守る。
「本当はもっと話していたかった。思いとどまってくれるんじゃないかって、ちょっと期待したの。笑えるよね」
……勇気ある行動だと思いますよ。
「ほんと?」
ええ、本当です。
「ナ、ナレーション……」
ゆっくりと塔が迫る。
「さてと」
花子はスッと起き上がり、横に移動した。
……あれ、終わり?
「終わりです」
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