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ある人の話をしよう。私を徹底的に変えたある人の話。
そのある人は田原君彦さんという。私と同じ小学校の教師をしていて、高校の同級生でもあった。話したのはある飲み会の席がはじめてで、五十五も過ぎて定年も秒読みという時期だった。小学校の教師をこのまま続けるか迷っていた時期でもある。ちょうど前の学校をやめたばかりで無職だった。
出会ったのは同じ同級生の井口さんに無理矢理連れてこられた飲み会の席だった。
井口さんには借りがあった。だから私は仕方なく参加することになった。
私は元々飲み会というものがあまり好きではないし、わざわざ飲みたいほど仲の良い友人がいるわけでもない。
その飲み会の席で集まった人たちも、私とは縁の薄い人たちだった。
いや、直接話したことがないというだけで、よく知ってはいた。
高校一年の時の同級生であり、あるいじめに関わった人たちだったからだ。
今思うとばかばかしいのだが、高校の時の自分は、クラス全員どころか同じ学校に通う高校生全てを見下していた。
中学は都内トップの男子校に受かった。中高一貫だったのに、経済的な事情で途中で公立に転校せざるを得なくなった。
育ての親が学校に関心がなかったせいもある。
そうして入った公立の高校は、元の中学と比べると底辺としか思えなかったのだ。
私はそこで面白い遊びを考えた。
中学の同級生である山本さんという人に聞いた井口さんの噂を私は知っていた。井口さんは小学校でいじめをしていた。だからこそ、いじめのリーダーに選んだ。
井口さんたちをいじめにうまく誘導することにしたのだ。
私が直接手を下したことはない。ただ掌の上で転がるのを眺めていただけ。
だがそんな遊びもすぐに飽きた。
別にどうでもよかった。クラスメイトがどうなろうと、いじめの被害者がどうなろうと本当にどうでもよかったのだ。被害者が自殺寸前でやめたのは残念だったが、ただそう思っただけだった。
高校を卒業し、四十年近く過ぎてから開かれた飲み会に、そんな人たちが集まっていたのだ。
被害者の一人、岡崎さんもいた。もう一人はすでに病気で亡くなっている。
井口さんが私のことも含めて本に書いていたので、当然ここにいる誰もが私のことを知っているだろう。岡崎さんには恨まれているかもしれない。
そんな人たちが集まる飲み会にどうして私が参加しなくてはならないのか。参加しても浮くだけなのは必至だ。なのにわざわざ借りがあるからと誘ってくる井口さんがわからない。
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