心の授業

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 それにもう1つ意外だったのは、田原さんという人のことだ。井口さんの手下だった田原さんのことを当時はまったく興味がなかったが、いじめが終わった後反旗を翻したのは知っていた。当時は敵対していたのに、今は冗談を言い合うほど、仲が良さそうに見える。  私が知らない間に何があったかなどに興味はないが、岡崎さんやその親友の沢村さんとも談笑しているようで、被害者や加害者などとうに超えているように思えた。  だからやはり私だけ浮いていたのだろう。  そんな中で楽しめるわけがない。  そして、田原さんが突然授業をやり出すと言ったのだ。  田原さんが井口さんと同じ小学校の教師になったということを、この日まで私は知らなかった。  授業といっても、田原さんが聞いた質問に他の人が答えるだけ。そしてそこから話を発展させていくだけだ。一体何が授業なのか。それに、最後に私にまでお鉢が回ってきたのには勘弁してほしかった。  ほとんどまじめに聞いていなかったし、田原さんがした質問にもまじめに答える気はなかった。  私にされた質問は、尊敬する人物と、大切に思っている人。それを聞いてどうするのか。私にどんな答えを期待しているのか全くわからない。正直つかみどころのない人だった。  高校の時は、全く話したこともなく、うろ覚えだが、そんな人物ではなかった。ただ頭の弱い喧嘩っ早い人物という印象しかなかった。実際そうだったのだろう。その理由は後で聞くことになるけれど、その時はよくわからなかった。  井口さんに借りがあるからここに来たのだということも田原さんには見抜かれていた。田原さんも井口さんに借りがあるらしい。だが、一生返すつもりはないというのだ。一体どういうことなのだろう。  私が質問に答えないでいると、何故か田原さんは自分で答える。尊敬する人物は孔子だという。ふーんと思った。大切な人については奥さんと友人と答えていた。無難な答えだ。結婚しているという情報だけはつかめたが、だからなんだとも思う。
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