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私が興味がないのをわかった上で、田原さんは急に身の上話をし出したのだった。
まじめに聞く気などなかったのだが、衝撃的な話で嫌でも耳に入ってくる。
母親が暴力を振るう人だったと、田原さんは淡々と言った。そして、「殺されないつぼは得ていた」と。その表現は私を震撼させた。
自分の家庭環境も決して良いものだとは思っていなかったが、まさかそれよりひどい環境で過ごした人が身近にいたとは。
虐待という言葉も、ニュースやどこか遠い世界での出来事だと考えていたのだ。
私の父は小さい頃に亡くなって、ほとんど母一人に育てられた。母と言っても育ての親で、血縁上は祖母だった。本当の母親とは生まれてこの方会ってはいない。自分は母に厳しいことを言われたことが何度もある。そして時にははたかれることもあった。
しかしながら、さすがに命の危険を感じたことはなかった。そんなことありえるはずがない。半信半疑というわけではないけれど、そんな家庭があるのかと思ったのだ。
田原さんは一体どうしてそんな話をしたのか。感想はないのかと言われても、答えようがなかった。衝撃的な話だったと言えばいいのだろうか。そう。どこかで現実感を帯びていなかったのだと思う。田原さんも私の態度でそれに気づいたのだろう。
田原さんは私の母親に何か抱えているとずばりと言った。図星だった。
私はついかっとなってしまったが、田原さんは無理に聞き出そうとはしなかった。
そして、突然田原さんが母親に会いに行くと言うのだ。八年ほど前に縁を切ったという母親。どうしてそんな人にわざわざ会いに行くのか。私は田原さんが一体何をしたいのか全くわからなかった。
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