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帰り下駄箱で靴を履き替えようとしたところで教室に忘れ物をした事に気づき脱ぎかけた上履きに再び足を通し教室に向かった。
教室の前に来ると人の気配がする事に気づき、入り口の窓から教室の中をそっと覗いた。中に居たのは愛島がだった。彼女は水槽の前で何か話しているようだ。俺は扉を開け中に入るが、反応がない。仕方なく途中わざと足をぶつけたりしてみるが彼女はこちらを見向きもしなかった。そして彼女に近づき異変に気づいた。
泣いている?
彼女は肩を小刻みに揺らし嗚咽を漏らしていた。
俺は彼女の肩を叩こうとし、絶句した。
彼女の掌にはさっきまで元気に泳いでいたぴーすけが今はヒレ一つ動かさず横たわっている。
「どうしてこんな事するの。私の事嫌いなら直接やればいいじゃん。なのにどうして……」
彼女は振り返ると俺の存在を無視して自分の鞄からカッターナイフを取り出した。
「おい!それで何するつもりなんだよ」
彼女の腕を掴むが雨で濡れているせいでつるりと抜けてしまった。彼女は立ち止まり振り返るとことなく言う。その声は今まで聞いたどの声よりも冷たく重く引くい声。
「心晴君……今日この子に餌あげてたよね」
「あ、あぁ……あげたけど……」
「そっ。心晴も彼女達と同じなのね」
彼女?愛島をいびる連中の事なのか。どうして俺が……
「俺がぴーすけに何かしたと思ってるのか」
彼女は振り返る。髪の隙間から青く鋭い双眸がこちらをい抜く。初めて見る彼女目。心を突き刺されたような痛みを覚える。
「この子に鼠の駆除剤あげたの心晴君なんでしょ」
俺は棚の上を見たそこで気づく。似たような官が二つ並んでいる事に。
「違う……これは……」
俺のせいじゃない。と言葉にしかけて辞めた。違うなんて言えない。俺は餌の官と間違えてあげてしまった。やってしまった事実は変わらない。
「もういい聞きたくない」
カッター刃がカチカチと音を立てて刃を伸ばしていく。
「お前何にを」──
──次の瞬間彼女は自分の指を切った。赤く光る液体が溢れるようにぽたぽたと床に垂れる。彼女はその血をぴーすけの口の中に入れると、そのまま水槽の中に戻した。
ぴーすけは力無く水槽の底に沈んでいく。水槽の底で跳ねるとまるで今まで死んだふりをしていたかのように勢いよくヒレを動かし生き返ったのだ。息を吹き替えしたぴーすけは、ある方向に向かって必死に泳いでいた。ガラスの壁があるにもかかわらずだ必死にだ。それは教室から出ていこうとしている彼女に待ってくれと追いかけているようだった。
俺は一度に起きた沢山出来事を処理できずにただ呆然と彼女が教室から出ていくの見ている事しかできなかった。
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