雨降り洞窟のアオウミウシ

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 面接の代わりに、墨田はこの洞窟について詳しく説明をした。しかし、朝来野にはほとんど理解できなかった。広さがどれぐらいで、酸素濃度がいくらで、湿度がいくらで、海抜マイナス何メートルで……。 朝来野の頭に残ったのは、墨田がこの田舎町の自治体から、洞窟の管理を委託された人物だということだけだった。デスクに出しっぱなしになっていた砂っぽい名刺をもらって確認したから間違いない。 「ボランティアみたいなものだけどね。ここの維持管理でもらえるお金は微々たるものだよ。とても生きていけないから、色んな仕事をしてる」 「……私の給料はきちんと出るんでしょうか?」 「心配ないよ。僕がもらっていた管理料を君にそっくり渡すような形だ。さっき言った「色んな仕事」が忙しくなってね。本業だったここの管理が行き届かなくなってきたのさ。役所から文句を言われて困っていたんだ」  説明されても朝来野の不安は晴れない。残業だらけの事務職だった前職と、今からやらされる仕事のどっちが大変だろうか。もしこの仕事が非常識なものだったら、紹介してくれた知人と縁を切らなければならない。  しかし、切れかかった縁は何とか持ちこたえる結果となった。仕事の内容が至って簡単だったのだ。  家庭用の小さなインクジェットプリンターに紙を補充、ネットで備品を発注、温度と湿度の記録、データをメールで送るなどなど……いわゆる雑用係だ。その中に一際変わった業務があった。  雨の前に大きな水槽と小さな金魚鉢が並べて置いてある。ゴム手袋でつけて大きな水槽からカラフルな海藻のようなものを、隣の金魚鉢に移すのだ。 「あの……墨田さん。この作業はどんな意味があるんでしょうか?」 「金魚鉢の中にアオウミウシがいるんだ」
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