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アオウミウシ……朝来野が聞いたことない名前だった。金魚の新しい種類だろうか。それとも、座敷わらしのような何かが、金魚鉢に入ってると信じているのだろうか……。
とうとう墨田の決定的な変態性を見つけてしまったのでは……という朝来野の心配は杞憂に終わった。分からないことは検索すると安全だ。
アオウミウシ(青海牛)は、最も有名なウミウシの一つ。全身がきれいな青に黄色の斑紋、それに赤い触覚をもつ鮮やかな体色の小型種である。
画像も同時に表示され、説明通り鮮やかな色だった。こんなに可愛い生き物が金魚鉢に入っているのか。
朝来野はしゃがんで金魚鉢をのぞき込む。自分が入れたカラフルな海藻のようなものがあるので目がおかしくなりそうだったが、なんとかアオウミウシを発見した。
青い身体に、赤というよりオレンジの耳としっぽ。アオウミウシに間違いない。
「か……可愛い!」
ゆっくりと動くアオウミウシを見つめる朝来野の瞳はきらきら輝いている。その後ろ姿を見た墨田は腕を組んで難しい顔をした。
「僕の気持ちを和らげるために、しばらくの間飼ってたんだけど、そろそろ手放そうかと思ってるんだ」
「え? どうして? こんなにも可愛いのに……」
「たしかに可愛いかもしれない。でも、こいつを飼い始めてから、雨が止まないんだ」
朝来野の目の前で今も降り続いている雨。話を聞くと、この雨は昔から降っていたのではなく、一ヶ月ほど前から降り始めたらしい。
「アオウミウシとこの雨が、なにか関係があるんですか?」
「ウミウシはアメフラシの仲間だから、雨を降るようになったんだ」
「ずいぶんファンタジックというか……非科学的なことを言いますね」
「科学なんて信用ならないよ。昔から信じられた定説が、近年になってことごとく覆されてるじゃないか」
もし雨が降る原因がアメフラシやウミウシのせいだなんて論文が発表されたら、まじめに毎日研究している科学者は怒り心頭だろう。そんなコペルニクス的転回はあり得ない。
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