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「ただの迷信でしょう。ツバメが低く飛ぶより怪しいですよ」
「でも、ウミウシを海に帰すぐらいしかやることがないんだ。この一ヶ月でずっと飼うことは難しいことも分かったし。役所にエサとかの費用の予算申請したんだけど、見向きもされなかったよ」
「当たり前でしょう。雨の原因になってる亀裂の補修工事の予算申請が先じゃないんですか?」
「それもおいそれとできないんだよ。あの亀裂を塞いだ場合、あの水の逃げ場がなくなる。別の場所に負荷が掛かって、新しい亀裂が生まれる可能性がある。現状で問題がないのなら、役所はお金を出さない」
迷信を信じているのかと思えば、管理人らしくしっかりしたことも言う。なんだか、読めない人だと朝来野は改めて思う。
金魚鉢に目を戻してアオウミウシのゆっくりした動きをみる。このちっこいのが降らせているような雨の勢いではない。
すでに業務は終わって時間があったから、ウミウシを海に帰す話を朝来野が積極的に進めればよかったのかもしれない。
けれど朝来野はもうすっかりアオウミウシの可愛さに魅了されていて、その話から意図的に離れるようにする。
「あの……今日は面接だと思っていたので、ワイシャツで来たのですが、明日からどんな服装が良いでしょうか」
「なんでもいいよ。君の好きな、可愛い服を着ればいい」
関心がないのだろう。ほとんど考えずに墨田は言った。
可愛い服……どんな服だろう?
とびきり可愛い服にしようと思ったが、この日は思いつかなかった。
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