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「いや……暑いね」
軽バンから降りた墨田はサングラス越しに太陽を見上げた後、麦わら帽子を目深に被り直した。
首にタオルを引っかけ、長袖、長ズボン、長靴という、長いもの尽くしの服装。
朝来野は対照的に、半袖のティーシャツ、ホットパンツにサンダルという、肌を惜しみなく太陽に晒している。
今朝、家を出ようとした朝来野に電話が入った。アオウミウシを海に帰そうという内容だった。
どんな服装が相応しいのか分からず、海だから肌を見せてもいいだろうと思って、この格好にしたのだが、海辺へついてみると墨田の服装が正しいことが分かった。
今日は大潮。しっかり潮が引いていて、磯ができている。海藻が生い茂っているところに、アオウミウシを逃がすそうだ。足場はヌメリがあって転けやすい。露出の多い朝来野の服装では、怪我をする可能性が高い。
潮風が気持ちいいかと思ったが、生暖かくベトベトしてる。汗に濡れたティーシャツが背中に貼り付いている。
車中で「なんで服装を教えてくれなかったんですか」と朝来野が恨み言を呟くと「ごめんごめん。僕が逃がすから心配ないよ」と言われた。なんだか、仲間外れにされたようで寂しい。
朝来野は砂浜まで一緒に歩いた。岩場に入っていった墨田が、恭しい手つきでアオウミウシを逃がしていた。横顔はほほえんでいたけれど、いつもより背中が丸まって見えた。
口を一文字に引き結んで墨田は軽バンの運転席に戻った。
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