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気まずい帰り道になりそうだと憂鬱になった朝来野だったが、意外にも墨田がぽつぽつと話し続けた。
「ウミウシは近所付き合いが面倒くさかったりするのかな?」
「どうでしょうね……あれだけ海藻があるんだから、エサの取り合いになることはないでしょうね。仕事にも行かなくていいんだし、気ままな生活をするんじゃないでしょうか」
「そうか……。じゃあやっぱり僕はアオウミウシに生まれてくればよかったよ」
墨田が青い姿になって、海藻に絡まりながらグウタラしているところを想像する。似合うかもしれない。
「やっぱり、気ままな生活がいいんですね」
「そうだね。それでいて、美しく生きたい。あれだけ色鮮やかだと、それだけで生きているのを許されているような気がする」
「人間のまま、美しくなりたいとは思わないんですか?」
墨田は反射的に口を開いたが、言葉が出ないようだ。しばらく沈黙した後に、思い出したかのように言った。
「美しくなりたいとは思う。でも、てらいや媚びのない美しさが、僕には分からないんだ。高価な服を着たり、車に乗ったりする事が、美しいと思えない」
「……どうしたら美しくなれるんでしょう」
「僕には分からないよ。それが分かれば、少しは楽に生きられるかもね。アオウミウシを逃がしても平気だったかもしれない」
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