1人が本棚に入れています
本棚に追加
ザー……。
雨が降り続いている。洞窟の奥から聞こえるこの音に、朝来野はすっかり慣れてしまった。
これだけ涼しいと、昨日の外のような暑さを忘れてしまう。最初に着たときは腕をさすりながらおどおど進んでいた。
けれど、今の朝来野はこの洞窟の道をランウェイに見立てて、胸を張って歩いていく。
雨が降っているいつもの広い空間に出ると雨音が朝来野を包むが、それを取り払うような大声を出した。
「墨田さん、おはようございます!」
声を掛けられた墨田は事務机に突っ伏していたけれど、きちんと朝来野の声が届いたようで顔を上げる。細まった目で眼鏡を探し当てて、ゆっくりと眼鏡をかけた。
「朝来野さん。今日は早いね。おは……」
言葉と同時に墨田の身体が固まった。
「その服……アオウミウシ?」
朝来野が着ているのは藍色に黄色の水玉模様のワンピース。襟のオレンジ色のリボンがワンポイントとなって目を引いている。墨田が言い当てた通り、アオウミウシのコスプレのつもりだった。
「アオウミウシがいなくなって、墨田さんが寂しがっていると思ったので……変ですか?」
「い、いや。似合ってるよ。……可愛いと思う」
朝来野はヨーロッパのメイドがやるように、スカートをつまみ上げてお辞儀をした。本物メイドの作法なんて分からないけれど、気持ちが伝わればいい。
「お仕事に支障はないと思うのですが……こんな服装でもいいですか?」
墨田は髪で顔を隠すようにうつむきながら、うんうんと言葉無く頷いた。
お墨付きをもらった朝来野は嬉しさを隠せずほほえむ。次の休みに他の服を行くのが楽しみになった。
最初のコメントを投稿しよう!