盗まれる傘

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盗まれる傘

 大学も、喫茶店のバイトもない、日曜日。 『風邪ひいた』  弓月からメールをもらった時、僕は家にいた。 外は朝から薄暗く、エアコンの除湿運転を効かせた部屋で、ベッドに寝転がって動画を見ていた。弓月からのメールがスマートフォンの画面上部に現れるまで、夕方になったことにも気づかなかった。  同じ大学に通っている弓月は一人暮らしだ。 彼女は、僕が住んでいるアパートから電車で一駅先の場所に、部屋を借りている。大学の帰りに寄らせてもらったことが何度かあった。  ひとまず、返信を打つ。 「大丈夫? 熱は?」  自分が打ったつまらない一言を睨んでいると、すぐに既読表示がついた。 『上がったり下がったりしてる』 『医者で薬もらったけど』 『いまいち』 「必要な物とかあれば、買ってくよ」  医者と患者の問診めいたやりとりを交わしたあと、スマートフォンを枕元に置いた。
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