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誠也
「そのうち考えてみるかもね。」
瑠璃葉のいつもの決まり文句だ。
俺はこの言葉を聞くたびにホッとしながらも溜息をつく。今日も振られたな、と。
健太が死んで以来、俺はずっと負い目を持ちながら生きている。もしかしたらあの日、あいつは俺がしようとしたことを見たのではないか、と。だけどそれはあくまでも仮定でしかない。そして未だ瑠璃葉は気付いていない。俺が本気で瑠璃葉を愛してるということに。
健太に瑠璃葉を紹介された時、俺の印象は『ごく普通の女』だった。それこそほぼ毎日のように引っ掛ける女どものほうが個性があると思えるほど可もなく不可もなくというところだった。
だから俺の当初の計画は奥手の健太がサクサク彼女をモノにするように仕向けること、だった。例えば俺が瑠璃葉にベタベタすることで健太が躍起になって彼女にせまる、とか。
今にして思えば本当に子供じみた行動だったが、親友の健太が一途に彼女を想っている姿を見ているうちなんだか応援してやりたくなったんだ。だけどその計画はいつの間にか頓挫した。俺自身が彼女に惹かれ始めていた。
写真の中の健太ははにかみながらも幸せそうに笑っている。この写真は俺が撮った。
スマホのシャッターボタンを押しながら、俺は脳内でもシャッターボタンを押していた。この光景を忘れないように。二人の幸せを壊さないように脳内に焼き付ける為に。瑠璃葉は健太の恋人なのだから、と。
だから俺は決めた。健太のバースディパーティーが最後。俺はもう瑠璃葉に会わない、と。
だけどあの日、俺の理性のタガが外れかかった。
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