誠也

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* 急に振り出した雨に気付いた瑠璃葉がテーブルセッティングの手を止めてベランダに走った。手伝うつもりで俺もベランダに出た。 バタバタと洗濯物を取り込む彼女の後姿が妙に艶めかしかった。 気付いたら右手が彼女に向かって伸びていた。俺の指が彼女の右手に触れた瞬間、彼女を抱きしめたい衝動が俺の脊髄を走り抜けた。もう片方の手が彼女に伸びかけた時、目の端に交差点が映った。 健太?歩道に立ってる?まさか今の見られた? 俺は手を引っ込めて視線を交差点に向けた。 すると耳にブレーキ音が飛び込んできた。トレーラーが左折をしようとして滑ったようだった。スピードが落ちきれないまま、それは歩道に乗り上げた。 ドンッ! 激しい衝撃音が辺りに響いた。瑠璃葉は何が起きたのか把握しきれなかった様子だった。俺は不安がよぎった。 あそこには健太が立っていた。 もしかしたらトレーラーにぶつかったかもしれない。 気が付けば俺は瑠璃葉の腕を握り、事故現場に向かっていた。 そこで見たのはアスファルトに流れた血が雨で拡散しまくってる健太。首がおかしな方向に曲がっていた。多分即死だったんじゃないだろうか。 瑠璃葉が俺の手を振り払い健太の前にしゃがみこんだ。そのままあいつの体にしがみつき嗚咽を上げた。 俺は。雨を振り落とす空を見上げ、吼えた。 「ひでえよ。」 俺は釈明する機会を永久に奪われた。 * 健太のお通夜に参列した俺はあいつのお袋さんにこっそり呼ばれた。 「ポケットにこれが入っていたの。」 お袋さんが手にしていたのは汚れた指輪ケースだった。 「これは処分しようと思うの。彼女には言わないでね。」 秘密ならなんで俺に言った? あの時はそう思った。だけどお袋さんにしても悔しかったんだと思う。あそこにいなければあいつは死なずに済んだ。 彼女の中では瑠璃葉は息子を奪った張本人だったのかもしれない。 瑠璃葉が哀れに思えた。
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