雨、二人、溶ける思い出

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「水筒、持った?」 「うん。そっちは、ご飯ちゃんと入れた?」 「入れたよ。他にいるもんないよね?」 「ない、かな」 荷物を確認し、玄関へと向かう。 「長靴二つあるかな?」 「ある、はず」 玄関の扉を開くとそこにはちょうど二足の長靴があった。 本棚にぴったり本がはまったみたいな小さな喜びを感じながら、無機質な感覚を足にまとう。 とん、と長靴を足にフィットさせ、目の前の扉を開いた。 久しぶりに吸う、外の空気。 しっとりとした独特なにおい、雨のにおいだ。 「傘は……さすがにない?」 「いや、あった。一本だけだけど」 「それはよかった」 姉のほっとしたような声が後ろから聞こえた。 しばらくしてから準備を終えた姉もまた、外に出てくる。 「ああ、外に出るの、いつぶりかしらね」 「ほんとにね」 適当に相槌を打ちながら、傘立てに一つだけ残っていた傘を取り、開く。 「ん」 「あ、はい」 姉が手を差し出し、俺は傘を持った手を伸ばす 俺が右手で傘を持ち、姉が左手でそれを支える。 「じゃ、いこっか」 俺の声で、二人で一緒に歩き出した。 さああ、と小降りに雨が流れているのが見える。 ぱしゃぱしゃと小気味いい音、気持ちの良い足への水の抵抗感。 ふと横を見ると、いつも通りの姉の顔。 「どこまでいこうか?」 「……いけるとこまで、かな」 「了解」 いけるとこまで、か。 果たしてどこまでいくことになるのやら。 どこまで、俺たちは。 いくことができるんだろう。
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