雨、二人、溶ける思い出

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ソレは何の前触れもなく、世界各国に降り注いだ。 どんな場所でも区別なく、ランダムではなく平等に全てに。 雨が地球を覆い尽くした。 その雨は毒だった。 雨滴は触れると物質を分解する性質を持ち、万物を溶かし尽くすことができたが、特に人体に有効に作用した。 人々はそれに様々な呼称を付けた。 だがほとんどの人はそれを、ただ『雨』と呼んだ。 雨の中を歩いている。 傘を差して、水を踏みしめ、湿った空気を吸い込む。 するとどことなく違和感がする。 ぱたぱたと髪に、額に、腕に、水が当たる感触がしたのだ。 おかしい、傘を差しているはずなのに? そう思って上を見上げてみると―――。 傘が溶けていた。 何が起こったかわからずに走り出す。 全身に痛みが走り、急いで雨をしのげる場所を見つける。 ああなんとか助かったと建物の中に入ろうとしたその時、足がもつれて転んでしまう。 立ち上がろうと必死に足を動かすが、中々うまくいかない。 どうしてだと焦りながら、足下を見てみると。 足がなかった。 こうして人類は徐々に数を減らしていった。 当然雨を防ぐ方法や、避難場所の確保など、様々な対策が施行された。 しかしそれも、決定づけられた運命を先延ばしにしているに過ぎなかった。 各国のリーダー達が、気付かないうちに消息を絶った。 メディアが伝える情報も、徐々に数を減らしていった。 ネットの安否確認サイトは機能しなくなった。 友達から連絡がこなくなった。 両親は、帰ってこなかった。 どうにかこうにか、生き延びることに全てを費やす。 日々増していく不安を、姉の存在が消し去ってくれた。 最後まで両親が持ってきてくれていた食料を、できるだけ節約して食べた。 ただ生きる。 生きて生きて生きて、生きる。 目的とか、意味とかは考えない。 ひたすらに、がむしゃらに生活を切り詰めて。 全力で、生き続けた。 ―――そして。 あの雨が降り始めた日から、どれくらい経ったのだろうか。 今日に至る。 朝に目を覚ますと、ひどく落ち着いた表情の姉が言った。 『二人で、外に歩きに行こうか』 その言葉が意味することは、すなわち。
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